2015年2月21日(土)~22日(日)
第78回日本皮膚科学会東京支部学術大会
会長:横関博雄
(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科皮膚科学分野)
会場:京王プラザホテル
「皮膚科における再生を目指した新たな展開」
大阪大学大学院医学研究科
情報統合医学皮膚科学教室
准教授 室田浩之
会長の横関博雄先生による会長講演は発汗学の歴史的背景と現在・未来についてお話しされた。横関先生は汗の研究を皮膚科学の領域からリードして来られた方だ。
発汗は皮膚における重要な生理機能であり、発汗生理学の学問的なエビデンスの多くが日本人によって発表されている。つまり、汗の研究は日本の「お家芸」である。中でも久野
寧先生と佐藤賢三先生はそのパイオニアとして知られる。久野先生は発汗量を測定する手法として換気カプセルを用いられた。それら機器の発達は現在私達が用いている検査機器の開発の礎となった。発汗量を評価することで、身体の場所によって能動汗腺の割合と能力は体の場所によって異なる、人種ではなく出生地が発汗量を決めるなど、ヒトのホメオスタシス維持に発汗がどの程度関わるかを明かにされてきた。佐藤先生は単一汗腺の機能を試験管内で評価し、汗腺の濾過メカニズム、トランスポーターの役割、分泌と再吸収に関する知見を世界に先駆けて発信された。汗の成分を評価する際、皮膚表面で汗の成分を調べようとすると様々な物質がコンタミネーションする。佐藤先生は汗腺1つ1つを取り出し、
試験管内で汗を評価することで純粋な汗の成分を測定された。この手技は大変難しく、再現するのにご苦労されたとのことであった。横関先生は佐藤先生のもと、汗の成分に関する研究をなされ、汗中の蛋白分解酵素抑制物質を発見された。今、皮膚科学内で汗が脚光を浴びつつある。私も汗に大変な興味を持っている一人だ。今後、私達はこれまで蓄積されてきた基礎データを徐々に実臨床にトランスレーションする時に来ている。私自身は本学会で汗に関するシンポジウムで汗指導に対する講演をさせていただいた。私たちの教室の小野先生は後天性原発性無汗症に対する私たちの治療方針とその集積に関する報告を行った。多くの方に興味をもっていただいたようで、汗に関する問題で困っている方は多いもの
と推察した。この分野の皮膚科学からの発展に期待したい。
皮膚科領域における汗の研究は進んでいる。私はアトピー性皮膚炎と汗の関係に注目している。研究の立案とデータマイニングを行えば行うほど、アトピー性皮膚炎における独特の汗トラブルの存在が見えてくる。そのメカニズムは踏み込むほど影法師のように遠ざかっていく。塩原先生が発表されたインプレッションモールド法による発汗の評価はさらに進歩していた。皮表の構造と汗孔の位置関係を病気で丁寧に見ることで多くの情報が得られていた。僕たちは病気から学ばなくてはならない、と感銘を受けた。
片山先生のdermatoporosisの話を伺い、ステロイドを処方する際にその薬が何のために処方され、その薬が皮膚にどのような薬理学的作用を発揮するかを考える事こそがプロの皮膚科である、という認識を得た。私たちは過去の統計学的なエビデンスをバックボーンに治療を提供することが多い。治療が臓器の細胞レベルでどのような影響を与えるのか、それを考えることが医科学なのだと感じた。治療がうまくいかないこともある。その際、治療薬がうまく使えていないことを考えると同時にうまくいかない病態の存在を考える必要がある。その思想が続く田原先生の紅皮症の発表に息づいていた。アトピー性皮膚炎に関するBieber先生の講演でもProvocation factorの探索が重要とされていた。
最終日、私たちの教室の山本先生は脱随性神経疾患治療中にみられた特異な皮膚症状について報告した。発表の前日、教室のメンバーが集まったときの事である。
山本先生はスライド17枚と少し(?)多めであることに悩んでいた。それならば、と林先生、田原先生、小野先生とともにスライド校閲に携わった。
その光景をみて、医局メンバーのいざという時の団結力を微笑ましく思った。
平成27(2015)年2月25日掲載