教室関係コラム

2013.06.04

第6回International Investigative Dermatology

IID参加記

大阪大学医学部皮膚科学教室
室田浩之

 エジンバラで行われたIIDにサテライトセッションのdermatoendocrinologyから参加した。同セッションでは寺尾美香先生が発表の機会を得ていた。Dermatoendocrinologyという概念の歴史は浅く、近年少しずつその重要性が認識されつつある。このような背景にあって寺尾先生がoral speakerに選出されたのは凄いことだ。さて、私は本セッションを楽しみに会場を訪れたわけだが、その参加者の多さに度肝を抜かれた。壁は一面立ち見客で覆われており、会場内の通路にもびっしりと聴講者が座っている。私はソーリー、ソーリー、髭ソーリー、などと言ったか言わないか、とにかく中へ進み、発表用プロジェクター後方のわずかなスペースに入り込んだ。学会を体育座りで聞いたのはこれが初めての経験だ。そのとき気づいたのだがChairmanの後方壁に棚があり、その上にきれいなブロンズ髪の女性が座っていた。聴講者の1人であろうその女性が、いったいどこの研究室から来た人なのか、気になってしかたがなかった。セッションはPaus先生の陽気なトークから始まった。続くSlominski先生の皮膚におけるステロイド合成の話から、私の研究しているコレステロールもかなりいい線に行っているのではないかと想像した。寺尾先生の11beta-HSD1に関するプレゼンテーションはすばらしかった。続くElias先生のグループの発表も同じ酵素の話だったが、寺尾先生の仕事がこの領域で先端を走っていることを明確にしたセッションだった。
痒みに関するセッションではノルウェーのKlas Kullander先生の話に興味をもった。VGLUT-2依存性の感覚神経が痒みを特異的に認識する事をマウスによって巧みに証明していたのだ。「痛み」と「痒み」が違う感覚だということはモルヒネの研究から明らかになりつつあるが、本研究は節後神経ですでにその伝達神経が異なることを示していた。
スキンバリアのセッションでは角質細胞間脂質のセラミドに関する演題がほとんどを占めた。セラミドの欠乏とフィラグリンとの関連についても示唆されていた。セラミドの重要性がさらに証明されたといえよう。今回、私はセラミドではなくコレステロールの機能に注目した研究結果を本学会でポスター報告した。何故コレステロールなのか、と問われれば、それは「Think Different」という私の研究ポリシーからであると答える。この仕事をSTAR WARSに例えるなら、ダース・ベイダーが実はすばらしいジェダイであることを証明する、という事になろうか。ある意味、自虐的回顧論はここまでにしておこう。
松井先生は汗腺のダイナミックな動態を観察した結果を報告した。この論文はつい数日前にJournal of Investigative Dermatologyにアクセプトされた。おめでとう!この汗腺の二光子顕微鏡による観察は決して容易ではなかった。試行錯誤の末に成し遂げた、正に松井先生の努力で得られた偉業だった。本演題はポスター採択だったが、貴重な汗腺の挙動映像を見ていただくためにタブレットPCを用意しておくべきだったと後悔している。

さて、エジンバラはステキな町だった。エジンバラ城から聖堂を見る方向にはたくさんの商店が建ち並び、「城下町」というにふさわしい光景だった。ルパンIII世カリオストロの城にでてきたカリオストロ城の城下町が思い浮かぶ。道端にはタータンの民族衣装をまとった大道芸人がバグパイプを演奏していた。それをご覧になった片山先生から突然私に「キルト」を着るように、という指示があった。指示は私にとって重要な意味をもつ。タータンショップに入り、キルトを手に取った。ズシン!私はその重さに驚いた。ラグビーをやめてかれこれ20年近くなる私には着用する体力的自身がなかった。「しかし、これは片山先生からの指示だぞ!」と自分と葛藤していたところに、キルトから顔を出した値札に目がいった。「£180」。私はおもむろにキルトをハンガーにかけると足早にその店を後にしたのだった。

写真:エジンバラ城の雨樋の装飾にはスコットランドの国花であるアザミが描かれている(写真向かって左)。これはアザミの棘がスコットランドに押し寄せたバイキングの行く手を阻んだことに由来するという。守り抜くことの大切さを教えられた。

第6回International Investigative Dermatology (IID)
会長:Alexander Enk 教授(ハイデルベルク大学)
会場:エジンバラ国際会議場
会期:2013年5月8-11日

平成25(2013)年6月4日掲載

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