教室関係コラム

2012.07.20

第42回日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会

第42回日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会

片山一朗教授

会長:横関博雄 東京医科歯科大学皮膚科教授
会場:軽井沢プリンスホテルウエスト
会期:2012年7月13−15日

 第42回日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会は7月13日午後、横関先生の会長講演から開始された。横関教授が就任された2005年からの主な研究である「IgEを介する遅発型、超遅発型炎症マウスモデルにおける好塩基球の役割」、「スギ花粉皮膚炎モデルの作成」、「痒疹のマウスモデル作成とヒト痒疹での好塩基球の役割」の3つの動物モデルの紹介とこれらのマウスモデルを用いたSTAT6デコイ、siRNAによる創薬への応用を中心に講演された。特に痒疹モデルは画期的な研究成果であり、今まで謎に包まれていた痒疹の発症機序の解明に繋がることが期待される。
 その後共同研究シンポジウムで「薬疹データベースの構築」など3つの新規テーマが紹介されたあと、大会の目玉である西岡清先生の「接触皮膚炎の基礎と臨床:過去から未来へ」と西山茂夫先生の「皮膚血管炎の診方、考え方」の2つの特別講演「来し方行く末」があった。西岡先生は御自身が40年以上前から一貫して取り組んでこられた接触皮膚炎の抗原分子の研究について「ハプテンと表皮キャリアー蛋白」、「リポゾームを用いた人工膜へのクラス2抗原導入による免疫応答の解析」を中心にお話しされ、今年のNatureに掲載された、薬剤が結合するHLA関連ペプチドに関する最新の結果で締めくくられ、今後の接触皮膚炎研究の方向性を示して頂いた。また西岡先生は本学会の前身であるパッチテスト研究会を1975年に発足されたが、パッチテストのパイオニアである英国St Johns HospitalのCharls D. Calnan教授が今年4月ご逝去されたこともお話し頂いた。西山茂夫先生の座長は私が務めさせて頂いた。先生には北海道で夏休み中、学会に出席頂き、お元気なお姿を拝見し、明快な血管炎のお話しを拝聴することができた。講演後Hypersensitivity angitisの今日的な位置付けをお聞きしたが、本症はサルファ剤による過敏性の血管炎で、現在は見られないが、今後またあらたな形で登場してくるかもしれないとのお答えであった。お二人の先生の講演の共通点は、自身のデータを中心に講演を構成され、その中で時代・時代の他の研究成果や臨床分類との対比を紹介され、簡潔でありながら将来に繋がる客観的な視点が講演の背景にあることである。お二人の講演を聴くために午後を休診にして駆けつけられた先生も多かったとあとでお聞きしたが、感銘深い講演を頂いた西岡、西山先生に御礼を申し上げたい。
 2日目は免疫中心のプログラムで構成され、平野俊夫大阪大学総長による招待講演「亜鉛シグナルと免疫アレルギー」を拝聴した。前日の西岡先生、西山先生同様、平野先生も総長として忙しい中、御自身のデータで肥満細胞の活性化における亜鉛シグナルの新たな知見を紹介して頂いた。

(招待講演での平野先生)

 シンポジウムは「好塩基球と皮膚アレルギー疾患」、「発症機序に基づいた新規治療法の開発」があったが、小児皮膚科学会の講演があり、前橋に移動したため、参加ができず残念であった。最終日は臨床アレルギーがテーマで、私と横関教授が座長を務めた「汗と皮膚アレルギー」は朝早い開始にも拘わらず多数の先生に出席頂いた。最初に塩原教授からアトピー性皮膚炎患者における汗の役割、その考え方をお話し頂き、その後4人の先生方にアトピー性皮膚炎、コリン性蕁麻疹、掌蹠膿疱症、異汗性湿疹のお話を頂いた。特に東京医科歯科大学の西澤綾先生のOptical coherence tomography(OCT)を用いた発汗のダイナミックな映像は圧巻であった。研究を指導された佐藤貴浩防衛医大教授からは多汗症の患者では、わき上がるように汗が導管から分泌されると聞いていたが、最終的な汗の出口である汗孔の開閉機序や角層内での汗管の動態がどうなっているか、異汗性湿疹での金属の役割など今後の研究の発展を期待したい。
一般演題では、昨今OTCやジェネリック薬品の問題がクローズアップされているが、今回もクロタミトンが原因であったステロイド外用剤の接触皮膚炎など興味深い演題が多数出題されていた。茶の雫による経皮感作による食物アレルギーや牛肉や豚肉に含まれるgalactose-α-1,3-galactoseが獣肉アレルゲンとなるのみでなく分子標的薬であるセツキシマブとも交叉するなどあらたなアレルギーの登場が話題を集めた。個々の症例報告は貴重な発表が多く是非論文として記録に残して頂きたいと考える。大阪大学からは一般演題6題が発表され、荒瀬先生が「手湿疹患者の背景因子とバリア機能の解析」でポスター賞を受賞された。
 最後に本学会の成功の陰でご尽力された東京医科歯科大学の先生にも深甚なる御礼を申し上げたい。

2012年7月13−15日(軽井沢)
平成24(2012)年7月18日掲載

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