教室関係コラム

2012.06.18

第111回日本皮膚科学会総会

第111回日本皮膚科学会総会

大阪大学大学院医学系研究科分子病態医学
皮膚科教授 片山一朗

会頭 大塚藤男 筑波大学教授
会場 国立京都国際会議場
会期 2012年6月6月1日〜3日 
テーマ —進化する皮膚科:知と技を磨く

 第111回日本皮膚科学会総会が6月1日から6月3日までの3日間、京都国際会議場で開催された。会頭の大塚藤夫筑波大教授、事務局長の川内先生には御礼申し上げると共に、大変お疲れさまでした。私も109回総会を大阪で開催しましたが、会場が遠くはなれた京都ということで、準備など本当に大変だったかと思います。昨年の110回大会が東北大震災のために中止となったせいか、今年は5、000人近い参加者があったそうで、何よりでした。また最終日午後には医療支援のボランテイアを担当された先生方の講演があり、このような未曾有の災害時に皮膚科医として何がどのようにできるか、何を記録として残しておくべきかを考えさせられた。最後に統括・指揮された飯島正文前理事長より挨拶と感謝状が演者に贈られた。
 学術大会は大塚会頭の会頭講演から開始された。20分という短時間で筑波大学の歩みを紹介された中で、初代教授の上野賢一先生がこの大会への参加を楽しみにしておられたが、4月4日に逝去されたことをお話しされた。上野先生の小皮膚科学書(通称:マイナーデルマ)で勉強した我々の世代には、いわゆる記載皮膚科学に代表されるドイツ皮膚科学の時代が終わったという感慨が残った。

 その後、最終日まで、スポンサードセミナー、教育講演や特別講演などを聞いた。最も印象に残ったのは東大形成外科の光嶋教授のSuper microsurgeryの講演であった。最初のスライドから驚くようなプレゼンであったが世界の形成外科をリードされる「神の手」の凄さを初めて目にした私には、あらためて皮膚科医がやるべき仕事が何であるかを考えさせられた講演であった。またコロラド大のRoop教授のiPS細胞を用いた先天性表皮水疱症の治療の可能性に関する講演は今後の難治性皮膚疾患の新たな可能性を示唆するものだった。阪大でも7月から玉井教授の骨髄細胞を用いた新たな治療が開始されるが、今迄、全く治療法のなかった遺伝性皮膚疾患を治せる時代に皮膚科医であることを感謝している。別の教育講演で教室の金田真理先生が講演された結節性硬化症のAngiofibromaの外用療法も同じレベルで世界に発信出来る研究であることを参加した先生方から聞き、あらためて金田先生の長年の努力に敬意を表したい。  
 最終日、塩原先生の女性医師問題のセッションで、塩原先生は講演の最初にJohn F Kennedyの有名な大統領就任演説「ask not what your country can do for you 
– ask what you can do for your country.」を紹介された。Countryは学会、教室、家族、指導者、同僚、後輩など様々な言葉に置き換えられるが、大事なのは医師を目指そうと決意した時の気持ちを持ち続けることであることを強調された。講演後の質疑応答での一人医長の女性医師の発言は逆に研究をしたくてもできない彼女の悔しさが身にしみた。我々の世代の責任として一生続けられる研究テーマをいかにして彼らに提供できるか、見つけた人の研究をいかにして支援出来るかを考えさせられた。塩原先生の行われたアンケートから浮かび上がった問題点として、指導者として残れる女性医師のサポート体制の確立が何より重要であるという結論にも同意したい。

教育講演は毎年同じテーマを行うことで、複数年の参加で皮膚科の進歩をカバーできるとの主旨で開始されたが、今後もう少し余裕を持ったプログラムとし、質疑応答の時間を充分にとる、専門医を対象としたより高度な内容のプログラムを提供して欲しいとの声も聞かれた。拝聴した講演の中では、2日目朝のMSでMRIの造影剤に使用するガドリニウムによるNephrogenic systemic fibrosis(NSF)が有益であった。名前は知っていたが、実際の皮膚症状や使用基準など参考になった。

 一般演題はすべてポスター発表であり、今回からデジタルポスターが採用されたが、会場が少し離れており,やや不便であった。また企業展示も例年に比較してやや寂しい印象であった。ポスター賞はその多くが症例集積研究で,多忙な中での長年の地道なご努力の成果が報われたような仕事であり、是非英文化して世界にその成果を発信して頂きたい。最後になるが今回マルホ賞を受賞された斎田先生のダーモスコピーの一連の仕事は、先生自身お話されたように、「当初誰も注目を払わない、あるいは猛批判を浴びた研究が現在は教科書に採用されるようになった」ことにあらためて先生に拍手を送りたい。

2012年6月

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