教室関係コラム

2015.05.13

西山先生からのお便り

西山先生からのお便り

大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗

 先日、久しぶりに西山茂夫先生から絵ハガキを頂いた。西山先生は御自身で撮影された蝶の写真をハガキに用いられているが、最近は切手も同様である。
 西山先生からはおりにふれ、近況や励ましのお言葉、示唆に富むご助言、箴言を頂き、大切に保存させて頂いている。「昨年から少し講演会を控える」とお聞きしており、心配していたが、久しぶりに頂いたお便りを拝読させて頂く限り、お元気そうで何よりである。今回は強皮症での組織変化に関して、SclerosisとFibrosisが同じ意味で使用されている(硬化と線維化とは病理学的にも、生化学的にも異なる)、あるいは血管の硬化性の変化が充分論議されていない点や皮膚の石灰化が血管の変化よるとの以前からの考え方が反映されなくなったとのご意見を頂いた。我々もケロイドと限局性強皮症の成因が異なる事は良く理解しているが、実際の病理組織変化がどう異なるのか、強皮症での血管の硬化、内腔狭窄などの有無、組織ムチン沈着の部位などや皮膚の硬化、線維化がどこから生じるかなど、あまり考えなくなった事を反省する次第である。また下腿の両側性の硬化病変を来す疾患として、全身性強皮症以外にも好酸球性筋膜炎やHypodermitis sclerodermiformis, Scleromyxoedema,最近ではガドリニウムなどの造影剤による強皮症類似病変(腎性全身性線維症といわれている、添付文書では硬化と記載)があるが、動脈系、静脈系、リンパ管の循環障害などいづれが発症において中心的な役割を果たすか、ムチン沈着の有無やその機序など、かつて論議された重要な問題点が、今日忘れられつつあるようで、もう一度また皮膚脈管・膠原病研究会などで論議したいが、難しいかもしれない。同じ事はかつてこのコラムでも扱った、LSAとMorphea,あるいはAtrophoderma of Pasini PieriniとMoroheaの異同に関しても同じことがいえそうである。Atrophoderma of Pasini PieriniはAtrophic scleroderma D’embleeとも呼ばれるように硬化期を欠き急速に萎縮期に移行する特殊なMorpheaと考えられてきたが、Morpheaと言う病名に起因するLilac ringとよばれる特徴的な紫紅色調変化は見られず、やはり病因論的には異なる疾患と考えた方が良いとも考えるが、そのような議論をすることが難しい時代になった。皮膚の病理組織を勉強するセミナー自体は盛況と聞くが膠原病や血管炎など疾患の成因のみでなく、予後や治療方針の決定にも病理所見を良く理解し、深く知る事は重要であり、猛反省したい。
 西山語録には多くの箴言があるが、以下のものは私が北里大学に在籍させて頂いた時に、よく聞かせて頂いた言葉で、今でもいつも繰り返し思い返し、自戒としている。「一例報告はつまらない、是非長期に観察した症例集積研究をしなさい。」この言葉はシェーグレン症候群や抗リン脂質抗体症候群を纏めるきっかけとなった。「ステロイドに頼らない治療を考えなさい。」という言葉によりステロイドを使用する意義、リバウンドの問題を考えるきっかけになり、ステロイドを使用しない外用療法を工夫することの面白さを知った.最近はさらにエスカレートして自分で使用したい新しい外用剤の作成に取り組んでおり、改めて皮膚科の臨床の面白さや皮膚という臓器の神秘性を再認識している。「膠原病はそれぞれの疾患で患者さんの、顔貌、性格、考え方、行動様式が異なりそこから診断されることも多い。紅斑などの皮膚症状、筋炎や血管障害でもそれぞれの疾患の特徴が、皮膚、筋組織や血管に現れる。」という言葉はまさに膠原病の臨床に携わる皮膚科医にとって金言であり、西山皮膚科学の真骨頂であるかと思う。西山先生から受け取ったお便りを読み、あらためて反省すべき事を再認識し、西山先生の言葉に触れる喜びを噛みしめている。

北里大学時代の写真から(教室秘書さんのイラスト画)

学会で西山先生が眼鏡を外され、眼鏡拭きでレンズをこすり始められると、その演題は???さらに首が左右に振られ出すとその演題は却下。教育的指導が必要な時には最後に天を仰いでマイクに向かわれたものである。今回は首を相当横に振っておられ、天を仰いでおられる姿が目に浮かぶ。

添付のPDFは1995年の西山先生の退官記念業績集からの引用で、西山先生の厳しくも、暖かいお人柄があふれ出ている。

添付PDFファイル

大阪大学大学院医学系研究科教授 
片山一朗 平成27(2015)年5月13日

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