教室関係コラム

2015.10.01

8th World Congress of Itch (WCI) 25回国際痒みシンポジウム

8th World Congress of Itch (WCI)
Nara Kasugano International Forum
September 27-29
President: Ichiro KATAYAMA (Osaka University)


25回国際痒みシンポジウム
September 27
会頭 稲垣直樹 (岐阜薬科大学教授)
奈良春日野国際フォーラム甍

大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗

学会場に行く途中、興福寺の遠景を望む。気持ちのよい初日の朝。

 痒みに関する国内の研究会(25回国際痒みシンポジウム)と国際学会「8th World Congress of Itch (WCI)」が秋晴れの下、奈良の春日野国際フォーラムで開催された。後者は今年が8回目となり、私が会頭をつとめさせて頂いた。第一回大会は2001年にTemple大学教授で痒み研究では世界的に有名なGil Yosipovitch先生がシンガポールで開催された。私も長崎大学の教授時代で演題を出していたが、出発直前に9.11が起こり、また10月に西部支部大会の会長を務めることになっており、出席を断念したことを思いだす。結局その時の出席メンバーの30人くらいがコアメンバーとなり、以後2005年にIFSI
(International Federation of Society of Itch)が設立され、今年は10年目の記念の会となり、招待会では10th Anniversary Cake が室田事務局長のお世話で皆さんに振る舞われた。

開会挨拶

IFSI 10周年記念ケーキ

 国内大会の痒みシンポジウムはダブリン大学のPAR2研究で有名なMartin Steinhoff先生の特別講演をはさんで計5題の指定演題の発表があった。特にSteinhoffは痒みの新しいメデイエーターを標的とする次世代の治療戦略を述べたが、その中でIL31は痒みの伝達だけではなく、NGFとは別個に末梢神経の増生に関与するという新しい知見を発表した。また富山大学名誉教授で本学会の設立者でもある倉石泰先生は東京医科歯科大学に移られたが、相変わらずお元気で、新しい痒み研究の成果を発表された。特に上行性の痛み感覚は脊髄後角のGRP(Gastrin releasing peptide)が痒み、サブスタンスPが痛み感覚の伝達に関与することを示された。興味ある点として下行性セロトニン神経系は痛みの抑制と痒みの増強、ノルアドレナリン経路は痒みと痛みを抑制するとのことであった。これは痛みにおける筋肉の逃避行動や痒みの掻破行動を制御すると考えることができるが、逆に温熱や物理刺激による痛みや痒み知覚に対する血管反射や発汗機能に下行経路どう影響するのか興味が持たれる。同様の脊髄レベルでの知覚の制御や増幅機構に関して、九大薬剤学の津田先生はマウスの掻破行動モデルにおいてTRPV1陽性のC- fiberにより伝わる痒み感覚が脊髄後角AstrocyteのSTAT3を活性化し、Lipocalin 2の誘導を介して、GRP依存性の痒み感覚を増幅するという非常に綺麗な報告をされた。また皮膚炎の発症した領域の支配神経に一致した脊髄でよりその発現が見られたが、乾癬などのモデルで同様の変化が見られるかはまだ未検討との事であった。この成果はNature Medに報告され、その著者である林先生は今回から新設された Hermann O Handwerker賞(副賞2,000ドル)を受賞された。この他,今回のトピックスとして胆汁欝滞などで見られる痒みにAutaxinであるLysophosphatidic acid(LPA)が関与することが話題になったが、その痒みにH1Rアンタゴニストが効果を示すことを防衛医大の橋本先生が報告された。カリフォルニア大Davis校のCarstens教授は味覚におけるTRPチャンネルの世界的な研究家であるが、TRPV1、TRPA1陽性末梢神経が掻破や温熱刺激で活性化することでヒスタミンあるいはMRGPA3誘発性の痒みを抑制することを報告した。

お茶の先生(木原宗郁さん)、片山、Jacek 理事長

左よりHandwerker先生,Carsten先生(次期理事長),片山

 Ethan Lerner教授はサブスタンスPがヒスタミン非依存性の痒みを誘導すること、ヒトMRGPRX2のリガンドとして作用すること、その拮抗薬がヒスタミン非依存性の掻破行動を抑制すること報告し、サブスタンスP阻害薬の新しい可能性を示された。また乾癬のモデルマウスでの痒みの増幅機序や抗IL17A抗体の効果などの話も話題になっていた。ただネズミの話がどこまでヒトの疾患に適用可能かはむずかしい。むしろヒトでの新しい脳機能解析機器を応用して行く方が早いかとも思うが、いずれにしてもこの数年の痒み研究の勢いは素晴らしく、若い皮膚科医にも是非参入してもらいたい。
 今大会は初日から期間中を通じて、大変天候に恵まれ、皆さん学会のあい間に世界遺産の寺院、神社、仏像を楽しまれ、夜のガーデンパーティでは中秋の名月を愛でながらの活発な討論が繰りひろげられた。当初は奈良の知名度の低さから、参加者の数など心配していたが、最終的には230人を超す参加者があり、初日の金春流の能「高砂」で皆さん一気に奈良が気にいったようである。第9回は2017年10月にポーランドWroclawでJacek Szepietowski  Wroclaw Medical College教授により開催される。

理事の方と最後の会議後の写真

 最後になるが、今回、普段よく会う皮膚科の先生、特にアレルギーを専門とする先生の姿を会場、討論などで見る機会がすくなかった。皮膚科医はまず皮疹を見ることから臨床医としてのスタートを切る。臨床経験を重ねる過程で患者の全身的な背景因子を加味して皮疹を視、そして、観る。さらに患者の全てを考慮しながら、皮疹を診て治療を考え、時に看とり、その結果をサイエンスとして記録していく。痒みは皮膚科医にとりその実体が捉えにくいかと普段から思っているが、そのことがアトピーを専門とする皮膚科医の参加が少なかった理由と考えると、その点は多いに反省すべきであり、今後は是非、臨床、基礎の若い先生の力で皮膚科医のこの分野への参入を考えて頂ければと願う。
 事務局長として大活躍された室田浩之先生、カメラガールとしてたくさんの写真をとって頂いた杉山さん、茶会で多くのゲストをもてなして頂いた光山さんとその先生である木原宗郁さん、たくさんのお仲間の方、また、学会事務ですばらしいおもてなしを頂いた日本皮膚科学会の山田さん、山本さん、河村さんにも心より感謝いたします。

ガーデンパーティ会場からの中秋の名月

大阪大学大学院医学系研究科教授 片山一朗
平成27(2015)年10月1日

  • 社団法人日本皮膚科学会
  • 日本皮膚科学会中部支部
  • 日本皮膚科学会大阪地方会