教室関係コラム

2015.10.06

年報序文

年報序文
「スクラップ アンド ビルド」は何をもたらすのか?

大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗

 スーパーローテートが開始され、私の大阪大学教授としての在職期間と同様、はや10年以上が経過した。研修医の大学離れ、医局離れ、そして大学院への進学者や海外留学希望者の減少が毎年この時期、基礎、臨床、地域を問わず、教授の間で話題になる。その中でスーパーローテートシステム開始と平行して行われた大学院制度改革にともない多くの基礎、臨床の教室が講座名称を変更し、特に基礎では何をやっている教室かが全く分からなくなった。確かにアメリカのように大統領がかわるとホワイトハウスのスタッフがすべて入れ替わるのと同様、大学でも教授がかわると、場合により開学以来蓄積されてきた多くの知的財産や貴重な医学資料、機器がすべて処分され、その時点で、その教室の歴史に幕が下ろされる。「スクラップ アンド ビルド」により新たな研究分野を創出するのは短期の結果が要求される科学の分野では重要かもしれないが、知的財産、歴史・文化を継承して行く場合、大学の不毛化を加速させる危惧が常にある。大阪大学総長である平野俊夫先生が医学部長の頃、「大阪大学医学部の基礎教室がシャッター通り化している」との危惧を述べられ、大きく研究改革の方向に舵を切られ、最近は以前よりは活気が戻りつつあるが、新たな専門医制度の開始により、大学院への進学がさらに減少する事が予測される。ヨーロッパではどこに行っても新市街と旧市街が混在し、アメリカ型の量販店と伝統を引き継いだ職人が集まる商店街がうまく共存し、大切なその国の歴史、文化を後世に伝えている。翻って今の日本では日本の伝統ある職人芸が滅び、つい最近まで、そこ、ここにあった、地域の商店街が次々と消えていきつつある。
 2014年は大阪大学皮膚科の皆さん、本当に自身の皮膚科学を追求され、臨床、研究に大きな成果を挙げられた。特に金田眞理先生は長年、診療されてきた結節性硬化症の症例を取り纏められ、素晴らしい臨床研究として2013年にPLoS Oneに発表され、その後も厚労科研で結節性硬化症の皮膚病変に対するラパマイシンの医師主導治験で大型の研究費を獲得され、今年も多汗症や神経線維腫への応用で、引き続き研究費を獲得されている。このようなご自身の臨床的な視点からの応用研究は私が目指す究極の目標であり、世界に誇れる成果である。また中国から日本に来られ、大阪大学の皮膚科大学院に進まれた楊伶俐先生は強皮症やアトピー性皮膚炎の真皮結合織のリモデリングにかかわる新たな分子機構を、寺尾美香先生は皮膚のステロイドホンルモン産生機構に関わる研究をあいついで報告され、この分野で世界をリードされている。2010年から私も厚労研究班班長として白斑のガイドライン策定、病因論の研究、新規治療法の確立などに取り組んできたが一昨年からは化粧品による白斑の病態研究にも取り組み、皆さんの協力である程度の成果が挙げられ、今年からの厚生労働省の研究へとつなげる事ができた。スタッフと若い先生の連携とその成果を見ると、大阪大学皮膚科に脈々と受け継がれてきた歴史、伝統に根ざした教室の財産を基盤としてそこに新しい視点からの研究手法が導入され、次の時代を切り開いて行く大きな成果が得られつつある。先に述べたように、一度途絶えた伝統を復興させるのは至難の業である。大学というアカデミアでもその危機感を共有し、次の世代を育てていくことが我々の大きな役割である。

「松井佐起先生、室田浩之先生等による世界で初めてのエクリン汗腺の3次元 (4次元画像)。大阪大学菊田順一先生、石井優教授との共同研究。初めてライブビデオを見た時には感動しました」

「ユカタン半島のセノーテ」
「メキシコ、ユカタン半島には地下水が長い年月をかけ、石灰層の土壌を浸蝕して、出来た数千キロに及ぶセノーテと呼ばれる地底湖が広がっている。その巨大な地底湖から光を求めて多くの植物がしっかり根を伸ばし、若葉を広げる姿は神々しい。」

昨年12月に千里で開催した第39回日本研究皮膚科学会はメインテーマを「Global tuning of innovative dermatology」とし、大きな成功をおさめた。協力頂いた教室員、同門の先生には心よりお礼を申し上げるとともに、ここ千里が丘から伝統に根ざした次の時代の扉を拓き、あらたな歴史を創り出す研究が生まれる事を願い、2015年の年報の序とさせていただく。

2015年初夏  片山一朗

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