第21回アトピー性皮膚炎治療研究会
テーマ:「治せないアトピー性皮膚炎」
平成28年2月27日-28日
会頭:片桐一元(独協医科大学越谷病院皮膚科教授)
会場:ソニックシテイ(大宮)
大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗
長年、代表世話人を務めてこられた青木敏之先生が退任され、最後の会となる21回のアトピー性皮膚炎治療研究会に参加した。昨年の鳥羽の会までは指定演題が中心で一般演題は殆ど公募されなかったが、今年はスポンサードセミナー以外、34題が口演され、お一人の持ち時間8分(予備時間は取られていた)で活発な討論が繰り広げられた、
開会の挨拶で片桐先生が、「他の学会でも昔の学会と同じ事が解決されないで、論議されており、この研究会でもアトピー性皮膚炎の何が解決され、今出来る最善の治療が何かを討論したい」との考えから、テーマを「治せないアトピー性皮膚炎」とし、「どこが問題なのかを浮き彫りに出来れば」と考えられたそうである。もちろん、初日は「治すぞ、アトピー性皮膚炎」という魅力的なテーマで16題の意欲的な口演があった。
今まで多くの会で治せないアトピー性皮膚炎の病態を聞いて来たが、大体10〜15%位の患者さんはどのような治療をしても治らない、あるいはすぐに再燃するようであり、その病態解明が望まれてきた。その中で医療の現場に来ない、あるいは引きこもりの方がどの程度おられるか不明であり、その中に西洋医学やステロイド忌避の方が難治例として多くおられることが予想されてきたが、最近は少しその数が減少してきているのではと考えている。会を通じて治せない症例として提示された多くの症例は紅皮症に近い方で、多くは粃糠様の鱗屑と乾燥が目立つようで、ステロイドやシクロスポリンの十分な治療でコントロールが可能となるが、減量や中止で容易に再燃するようである。外用できない何らかの理由(実際は外用していない例もある)がある方やペットなど悪化因子の回避が不可能な患者さんも難治となることが報告されていた。そのような難治例の背景に発汗低下が大きな要因となっている可能性を塩原先生が指摘された。レプリカ法による詳細な発汗機能の検討で、角質の水分保持には皮溝への発汗、体温調節には皮丘性の発汗が重要であり、アトピー性皮膚炎で慢性期の発汗低下が皮膚乾燥の大きな要因となり、汗孔の閉塞や汗管からの汗の漏出がその大きな原因であること、保湿剤の適切な外用で改善することを明確に示された。代償性に発汗過剰が見られる場合もあり、その場合は汗そのものの刺激で悪化する可能性もあるとの事である。ただアトピー性皮膚炎の真皮深層から脂肪織には目立った炎症がないのは事実で、汗孔の閉塞を一義的に考えると持続性の汗の漏出がどのような皮膚の組織反応を起こすかの検討が必要とは考える。また角層水分量測定装置が患者指導に有用であること、皮膚乾燥を的確に是正する皮膚科医としての眼が何より重要であることを強調され、バイオマーカーやGLのような他科の医者が容易に利用できるツールのみに依存する治療の危険性を指摘された。私も難治例の方は発汗低下が主体で全身の潮紅、乾燥、時にデッキチェアサインなどが見られる事、その治療に発汗指導や適切な外用が有益ななことは報告している。また今回の症例報告を聞いて汗を含めてまだまだ悪化因子の検討が不十分である事も感じた。これは塩原教授も指摘されていたが、診察医が毎回変わるような大學や基幹病院では原因アレルゲン、悪化因子の吟味はなかなか難しいことが多く、むしろアトピー性皮膚炎を熱心に診療され、長期に患者指導されている開業の先生こそが明らかに出来るのではと考える。接触皮膚炎、ペット、食物、汗、入浴法、不適切なスキンケア、外用法などの是正で驚く程改善する例があるのは良く経験する事である。ステロイド外用薬の適切な使用法や副作用の回避などは今まで多くの議論が重ねられてきたが、やはり今回の発表でもその長期使用で効果が減弱する例や不規則な使用とその中止、内服ステロイドの併用で一時的な悪化やコントロール困難になる例が発表されていた。AAD(米国皮膚科学会)からも最近のGLでは内服ステロイドの副作用が強調され、外用に関してはしてはあまり触れられていない。Hanifin, SimpsonらによるJAADの論文ではSteroid withdrawalのsystematic review
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/m/pubmed/25592622/) が報告されており、Evidenceには欠けるが、外用ステロイドの不適切な使用による重要な副作用であり、その発症には十分な注意が必要と記載されている。ネオーラルに関しても従来の治療に反応しない重症の成人例(使用は16歳以上で最大12週で中止あるいは休薬期間を設ける)とGLに書かれているが、実際には中止できない、あるいは継続使用により副作用が見られる症例も経験している。GLには書かれているが遵守されていない事例やその逆も見られ、今後の検討が必要かと考える。現在、乾癬、メラノーマの分子標的薬が皮膚科の中で一般的に使用されるようになり、ネオーラル同様、今後登場してくる高価な分子標的薬の恩恵を受けられる患者と受けられない患者が重症のアトピー性皮膚炎治療でも起こるかと考える。本治療研究会での議論を基盤として本当に治癒できない、あるいは治癒しない患者の病態把握が何より重要であり、その意味で塩原先生の提示された、悪化因子としての汗対策や難治例での血液検査、GLにとらわれない診療、そして発疹を見てその病理像、病因、検査異常が思い浮かべられる皮膚科医としての眼の重要性と教育の必要性を再確認した。大阪大学からは室田先生が「汗対策による改善効果」、林先生が「アトピー性皮膚炎とリンパ腫の問題」、片山が「ステロイドの問題」、村上先生が「最重症の双子の患者さんの10年に亘る治療経過」を報告された。村上先生のお母さんとの協力や学校との度重なる交渉には本当に頭の下がる思いで発表を聞かせて頂いた。座長の片桐先生のこのような最重症の患者さんの長期の診療で、「折れそうになる心」をどう維持されてこられたのかという村上先生に対するコメントは、心から共感した。あわせて不可能とも思われる、このような患者さんの悪化因子を一つづつ解決していくことで、副作用を生じない治療が可能になることをあらためて認識した。早期に強力な治療を行えばこのようにならなかったという座長の片岡先生のコメントは、先生ご自身が似たような症例をたくさん経験されてきたからこその励ましのコメントと受け止めさせて頂いた。最後になるがこの会の代表世話人として我々を指導して頂いた青木先生には会員を代表して心よりお礼を申し上げる。
演者:波多野先生(大分医大)、座長:片桐、片岡先生
→アトピー性皮膚炎治療研究会プログラム第21回シンポジウム(pdf)
2016年2月