教室関係コラム

2016.04.03

第32回日本臨床皮膚科医会・臨床学術大会

第32回日本臨床皮膚科医会・臨床学術大会
2016年4月23日〜24日
会頭: 佐藤 淳
会場: 岡山コンベンションセンター

大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗

 第32回日本臨床皮膚科医会・臨床学術大会は佐藤淳先生を会長として岡山市で開催された。一年前、プログラム委員長の岩月教授からシンポジウムの企画を依頼され、参加した。前日までの荒天が嘘のようで、前夜お招き頂いた後楽園では初夏の訪れを感じさせる香りが広い庭園内に漂っていた。

 初日の最初のプログラムは岩月教授と片山治子先生が企画されたDerma live1でクリッカーを用いた会員参加型の教育講演であった。岩月教授はSuperimposed psoriasisとSAPHO, PAPAなど好中球の異常活性化をともなう自己炎症症候群に関連する疾患を提示された。特に前者はKoebner現象とも異なり本来のPolygenicな発症因子による乾癬がLoss of Hetero(LOH)のような発生期に起こる抑制的作用する遺伝子機能が後天的に欠失することで生じる病態である事をHappleマールブルク大名誉教授の論文を引用して解説された。岩月先生は我々が乾癬学会で同様の症例を報告していたことを記憶されていたようで、コメントを求められた。Koebner現象との異同は良く理解できないが、以前小児皮膚筋炎に見られたILVEN(表皮母斑)様皮疹を投稿した時にBlaschko line に一致して生じる炎症性疾患をBlaschkitisとして包括してはどうかとの意見をReviewerから頂いた事がある(A case of juvenile dermatomyositis manifesting inflammatory epidermal nevus-like skin lesions: unrecognized cutaneous manifestation of blaschkitis? Ishida H et al. Allergol Int. 2010 Dec;59(4):425-8)。近年revertant somatic mosaicismとして異常な遺伝子が正常化する現象(Ichtyosis confetti. J Clin Invest. 2015 Apr;125(4):1703-7. という先天性の角化症では後天的に欠損遺伝子の機能が回復し、正常な皮膚が現れることが報告されている)。逆に先ほどのLOHなど遺伝子レベルでの発現制御の解除による症状の増幅(ライオニゼーションlyonization)など知らない病態が続々と報告され,日頃の勉強不足を痛感させられる。)もうお一人の演者である、片山治子先生は岩月先生自身、岡山大学の至宝と呼ばれる位臨床に強い先生であるが、その先生自身、診断の遅れで、後悔した症例としてFebrile Ulceronecrotic Mucha Habermann diseaseを紹介された。この症例は幸い小児例で懸命の加療で4月弱の治療で退院されたが、成人では予後不良例も多い、私も、以前長崎大学で同様の症例を経験し、報告して頂いたが、その後もT 細胞リンパ腫との異同が難しかった例や、Thymoma associated multiorgan autoimmunityなど同様に予後不良な症例を経験している。個人的には自己反応を制御しているTregの機能異常によるGVHD的な病態ではと考えている。Diminished regulatory T cells in cutaneous lesions of thymoma-associated multi-organ autoimmunity: a newly described paraneoplastic autoimmune disorder with fatal clinical course. Hanafusa T, et al. Clin Exp Immunol. 2011;166:164-70.
 私が担当したDerma Live 2「皮膚科医の眼の値段2016年:見逃しやすい皮膚腫瘍」は共同座長の和歌山医大の山本有紀先生にイントロダクションを担当して頂き、次いで福島医大の山本俊幸先生に「赤い結節、黄色い結節」、大阪市の谷守先生に「リンパ腫」、大阪大学の種村篤先生に「黒い結節」を講演して頂いた。特に谷先生は長年大阪大学医学部皮膚科学教室で担当された悪性リンパ腫患者の臨床を騙し絵を例にとり、一面的な見方の危険性を強調された。近年アトピー性皮膚炎や乾癬の治療経過中に悪性腫瘍やリンパ腫が出現する例が報告されているが、谷先生は慢性の患者さんでは必ず全身の皮疹を観察し、異常な皮膚表現のさらに異常な皮疹が見られる場合には必ず生検をすることの重要性を指摘された。

リンパ腫診療における他科との連携 (谷先生)

 翌日は「そうだったのか!!この皮膚病変〜以外な原因、病理、合併症」(座長:浅井俊也、山本俊幸先生)で日本医大の安斎眞一先生の「〜以外な皮膚病理」を拝聴した。二種以上の腫瘍が一つの切片に現れるCollision tumorは参考になった。また臨床的には定型的な結節性痒疹で組織学的にEosinophilic spongiosisやVacuolar degenerationがあり、通常の痒疹反応とは異なった像を呈した症例を提示された。その時は主治医がDIFをオーダーしており最終的にPemphigoid nodulariisと診断されたそうである。このタイプはBP180抗体価が比較的低いそうである。私自身痒疹は興味がある疾患で、このタイプではIgEクラスのBP180抗体がでやすいのか、また発症に好塩基球(防衛医大佐藤教授 Hashimoto T et al. J Immunol 2015)が関与しているのか質問したが、今後検討したいとのことであった。Listen to neighbors 4「今知っておきたい感染症の最新の話題」で、岡山大学の山崎修先生は最近、市中感染型MRSA感染症でPanton Valentine 型のロイコシジン産生菌が増加し、基礎疾患のない健常者間で深部の皮膚感染症を繰り返す事が問題になっていることを講演された。我々はMSSAが証明され、両親、患児、妹の家族内で癤症を繰り返す症例を経験しており、その対策をお聞きしたが、なかなか有効なものはないとのことであった。
 本学会は企画が大変すぐれ、ユニークな構成であり、参加された先生方も  十分満足されたことと考える。なおポスター賞に林美沙先生の「爪乾癬と関節症性乾癬に対する超音波検査の有用性」が選ばれ、懇親会の席で表彰された。特に乾癬の爪病変の病因を関節エコー所見で分類され、光線療法、外用療法さらに今後の生物製剤の適応を考える上で大変有益な臨床研究であり、高い評価を得られると考える。

林先生、江藤先生(東京逓信病院皮膚科部長)と懇親会にて

平成28年4月掲載
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