デジタル皮膚科医とアナログ皮膚科学
大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗
私が教授を務めていた長崎大学の皮膚科の同門会誌は、今年で34号の発刊となるが、第一号よりその編集方針は変わらず、当初より編集に当たられた野北通夫名誉教授の手作りの匂いが今でも残っており、最近は宇谷教授の巻頭言を読むことを楽しみにしている。
今年届いた、最新号のページを捲っていると、タイトルのデジタル皮膚科医に関するN先生の随筆が眼に留まった。K大学のK教授が書かれた記事からの引用という事で、最近の皮膚科学はアナログ的な形態学よりは数値化されたデータに基づくデジタル的な診断が主流になりつつあり、それが先生のご専門領域の縮小化に繋がっているのではという考察である。これは先に、コラムにも書いたAI皮膚科医の話にも繋がるが、将来的にはAIは皮膚科医の形態学的診断能力を軽く超えるようになると予測されている。またN先生の領域に関わらず、皮膚の病理診断学や基礎医学研究などの手法が今アナログからデジタルの世界に大きく変貌しつあり、結果として、アナログ時代の教育を受けた皮膚科医とデジタルしか知らない若い皮膚科医の間に大きな診断的な基盤のずれが生じつつあると考える。こういったことは皮膚科の臨床ではEBMやGLの普及と治療アルゴリズムという形で専門医でなくても診断や治療が可能になりつつある現状を反映しているし、生物製剤、免疫チェックポイント阻害薬の登場による画期的な治療効果はその傾向に拍車をかけているが、診断基準にあてはまらない病態をどう診断し、どう治療して行くかの答えはない。また皮膚疾患はその臨床的な表現が非常に類似しているが、病態、病因は全く事なる「似た者同士の疾患」も多い。重要な事はマクロ、ミクロに関わらず、その疾患がその患者でなぜ、そしてどのような機序で生じたかを考え、鑑別をしっかり考え、最も適切な治療をしていく(あるいは治療しない)決断を下せるか否かであると考える。(AI皮膚科医が治療をしないという選択肢を下せるようになるかは興味があるが、、、、)。基礎においてもアナログ的な解析研究から、高額のデジタル分析器機、試薬の使用や短時間でのマス解析が可能な時代になりつつあり、其の負の部分がSTAP細胞などの問題となって現れている。また先日K大学のA教授と話をしたおり、今後、入院患者を診療できない女性皮膚科医が診療の中心になる時代、どう皮膚科学を継承して行くかの議論になった。先行する米国などの現状を仄聞する限り、皮膚科の重症患者は少数の優秀な皮膚科コンサルタント医が内科、外科に入院した患者の治療方針を決めて行くそうである。そこではEBMと診断アルゴリズムに基づいた医療が行われ、治療は保険会社が加入している保険の種類で決めるそうで、それ以外の高価な治療は自由診療になるそうである。診断がつかない場合、病理や腫瘍医、あるいはリウマチ医など専門医が参加して治療方針を決めて行く。しかしそこから漏れていく、本当に解決すべき重要な問題点が積み残されていくことが危惧されるし、EBMに乏しい最新医療が大手を振って行われるリスクも日々報道されている。
平成28年7月掲載