教室関係コラム

2016.09.03

第24回日本発汗学会

第24回日本発汗学会
会長:片山一朗 大阪大学皮膚科教授
会場:大阪大学銀杏会館
会期:2016年8月27日−28

大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗

 第24回日本発汗学会を2016年8月27日(土)~28日(日)の2日間、大阪大学銀杏会館にて開催させて頂いた。この学会は基礎・臨床・企業研究者が集い、汗に関する最新の研究成果や症例報告を発表し、活発な討論が飛び交うユニークな学会で多くの事務局長の室田先生を中心に教室関係者のサポートで準備を進め、無事に終了した。ご協力頂いた方には心よりお礼を申し上げたい。
 我が国における、汗の研究は日本の発汗研究の創始者である名古屋大学の 久野寧先生とその門下生の方々、皮膚科では東京医科歯科大学皮膚科の横関博雄先生が留学されていたアイオワ大学の故佐藤賢三先生の単一汗腺の単離に基づく膨大な仕事を中心に発展してきた。私自身は30年程前からシェーグレン症候群、そしてアトピー性皮膚炎での発汗異常に興味を持ち、研究を継続してきたが会頭講演では、その一部を紹介させて頂いた。シェーグレン症候群は外分泌腺が障害される自己免疫疾患で、涙腺、唾液腺、尿細管などに加え、汗腺も障害されるが、発汗機能異常は診断基準には無く、今後、発汗機能検査も是非、診断に用いられるような努力が必要と考える。昨年1月から指定難病にもなり、またSEKIKENという会社から簡易型の発汗測定器も販売され、発汗機能検査が自律期神経機能検査として保険収載されており、あとは他の外分機能検査との比較や測定感度、重症度との相関などの検討を公表して行く必要があるかと考える。またアトピー性皮膚炎と合併することもあり、その場合、湿疹病変に加え、乾燥肌や皮膚のアミロイドーシスなどがより強く現れることを報告している。室田先生が中心となり進めているアトピー性皮膚炎の発汗機能やカユミの研究はOCTや2光子顕微鏡、マウスなどのMRI解析など驚くほど研究ツールが進んでいる。やれば驚くような、面白いデータが次々とでてくるようで、皮膚、そしてまた汗腺というメインストリームからはやや外れた研究対象ではあるが、逆にそこからの発見が今後,他の分野にも応用されて行く可能性があると私は考えており、若い先生にはどんどんこの古くて新しい研究領域に参入して頂きたい。20年ほど前に長崎大学に教授として赴任したおり、当時熱帯学研究所の所長をされていた久野先生門下の小坂光男先生からは恒温室の使用と当時としては画期的なQSART法を教えて頂いた。初めてアトピー性皮膚炎の発汗異常を定量的に解析することができ、論文として報告し、大阪大学に異動後も研究を継続している。学会中に久しぶりにお会いした保健学科の近江教授にはOCTのマウスへの応用で、ずいぶんとお世話になり、汗腺の4次元的な解析への道を拓いて頂いた。このように機器の進歩や新しい研究技術の開発は驚くべきスピードで進んでおり、本当に心からわくわくする、面白い時代に研究生活を送れることに改めて感謝する。特別講演でお話頂いた大阪大学の蛋白研の関口教授の細胞外真トリックスの研究でもラミニン511E8フィラグメントなどがiPS細胞の培養の進歩に貢献しているという話や、汗腺にいることが明らかになった幹細胞からの汗腺再生など夢のある話を伺うことができた。さらにJAXAの古川飛行士をゲストスピーカーとしてお招きしたシンポジウム「宇宙と汗」は普段あまり聞けないような宇宙空間での日常生活や汗の処理、そして、下着の開発の話など今後皮膚科の医者も参入できそうな話題が印象に残った。仙台から参加頂いた東北大学名誉教授の田上八朗先生は、皮膚の角層機能の定量的な測定機器の開発とその応用で大変有名な方で、以前からご指導頂いている。今回も先生ご自身の大藤真京大名誉教授との研究史秘話、Kligman教授との研究裏話を聞かせて頂いた。また高齢者の皮膚は予想以上にバリアがしっかりしていること、発汗障害のみでは皮膚の乾燥肌は生じず、同時に皮脂の分泌低下や加齢に伴うフィラグリンなどの産生低下が複合的に関与するという,マウスモデルで明らかになってきたことを、先生がご自身で人の皮膚を用いて証明されてきた結果を示された。大阪大学からは、室田先生が2光子顕微解析による新しい発汗機能解析の成果を中心に講演された。また山賀君は汗腺、汗管のタイトジャンクション蛋白の発現様式を検討され、アトピー性皮膚炎で真皮内導管のClaudin 3の発現低下が見られ、汗の漏出が観察されること、そのノックアウトで同様の現象が見られることを綺麗に証明された。今後このような現象が他の外分泌腺でも後天的に生じうるのか、もし生じるとしたら、どのような症状が出現するのかなど興味深い。小野先生は汗のメタボローム解析を核磁気共鳴法で解析され、発汗低下の見られるアトピー性皮膚炎患者では汗中にグルコースが排泄されていること,糖輸送に関わるSGLUT2の発現、分布異常があることを報告された。これは発汗に要するエネルギー消費の問題と関わるほかに、皮表常在菌成分の汗への混入など消化管や上気道など、外界と繋がる線組織での微生物との共存を考えるときに重要な問題になることが予想され、さらなる研究の展開を願いたい。楊飛先生は結節性硬化症白班部で見られる発汗低下に汗腺筋上皮細胞でのある物質の沈着が原因ではとの電顕的な観察結果を患者,およびTSC1,2のノックダウンマウスで証明し、報告された。mTORの発現亢進により結節性硬化症では血管線維腫やLAMなどの腫瘍性病変や,白班などが見られ、それらにラパマイシンが効果を示すことを報告されているが、逆に掌蹠多汗症にラパマイシン外用が効果を示すとうい結果を得ており、その結果が期待される。後天性全身性無汗症AIGAで血中CEAの上昇が見られることが最近旭川医大皮膚科から報告され,注目されているが、信州大、埼玉医大から同様の報告があり,分泌部の暗細胞の減少が関与している可能性が報告された。その他、スポーツ医学での発汗機能解析、新しいスポーツウェアへの応用、発汗機能の性差、年齢差、人種差など興味深い演題が多く、久しぶりに頭がリフレッシュされた。日本発汗学会は 会員が180名くらいの比較的小規模な学会で、その分、基礎、臨床のエキスパートの先生が参加される非常に密度の濃い学会である。ただここ数年、臨床、基礎また研究分野を問わず若手の研究者の減少や海外留学を希望する方の数が下降線を辿っており、先に述べたように今後、非常にユニークでかつ未来の生活に直結するような研究の進展が予測され、かつての久野先生や佐藤先生がそうであったように、若い先生にはその柔軟な発想で新しい世界を切り開いて頂きたい。下の教本は9月末にKarger社から出版予定の皮膚科の研究者を中心に横関先生、室田先生等とともに編集したもので、
現時点での発汗研究と臨床でのトピックスを取り纏めている。一度また手にとってご覧になればと思い佐藤賢三先生の一番輝いておられた頃の写真ともに紹介する。

 

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平成28年9月3日

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