教室関係コラム

2017.01.24

第40回皮膚脈管・膠原病研究会

第40回皮膚脈管・膠原病研究会
会長:山本俊幸(福島県立医科大学医学部皮膚科学講座 教授)

大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗

第40回皮膚脈管・膠原病研究会が福島県立医大の山本俊幸教授を会頭として開催され、出席した。前日は山形の皮膚科勉強会に出席し、翼で福島に移動し、朝一番の演題から聞くことができた。今回がこの名前で開催される最後の会となり、夕方の記念講演ではこの会の設立と発展に長く寄与された神崎保・鹿児島大学名誉教授と西岡清・東京医科歯科大学名誉教授からそれぞれ「膠原病研究会の、今迄とこれから」、「皮膚脈管膠原病・研究会の存在意義を考える」というタイトルで講演を頂いた。西岡清先生からはこの会が坂本邦樹奈良医大名誉教授と西山茂夫北里大学名誉教が中心となり1976年11月8日に皮膚脈管懇話会として東京サンケイ会館で開催され、16題の発表があったこと、その後、休会があったそうであるが、1980年には西岡清先生が岐阜大学で会頭として開催されたことなどを当時の貴重な写真を提示されながら講演された。

(写真は坂本邦樹先生と西山茂夫先生)

1987年からは、西岡清北里大学助教授(当時、現;東京医科歯科大学名誉教授)のお考えを取り入れられ「皮膚科で膠原病を考える会」を設立され、以後2日間の同時開催として運営されるようになり、暫くは毎年六本木の国際文化会館で開催されたことは2012年、2016年のコラムにも書いた。2001年に2つの研究会が合同化し、現在の「皮膚脈管・膠原病研究会」と名称が改められた。本会は学会ではなく、研究会という自由な雰囲気の中で、毎回個々の発表演題について西山茂夫先生を中心に診断の根拠、病理組織の見方、そして解決されるべき問題点が時間の経つのを忘れて討論されたものである。西岡先生からは、最近は、あまり病態研究や治療開発の討論が無くなりつつあることや、海外の分類の紹介や検査成績の討論が中心になり、ミニ学会化しているとの指摘があった。また神崎先生からは今回、いくつかの理由から、本研究会が日本皮膚免疫・アレルギー学会(2018年1月から日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会の名称変更)に合同化すること、現在の形式での会が今回で最後になることに対する改善、再建策として、参加費が安すぎるので、現在の3倍にする、記録集は不要、演題数を減らし、討論を充実するなどの意見を頂いた。「この会が無くなれば、私はどうしたら良いのだろうか」とのコメントには、本当に申し訳ないと感じた。
今年の日本皮膚免疫・アレルギー学会(日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会から名称変更)が金蔵教授を会頭とし、(12月8日~10日、鹿児島)、合同開催とし、膠原病、血管炎のセッションを増やし、会期を3日間にするとの会の運営方針も了解を得ており、来年の奈良での浅田先生の大会でもう一度合同化の是非を考慮し、一本化する予定である。この3年位参加者が減少し、討論もほとんど無くなり、また会場や運営費の確保が先細りということで、合同化に踏み切った次第であるが、今回200名以上の参加があり、かつての会を彷彿させるような活発な討論もあり、閉会時間が大幅に遅れたが、皆さん、久し振りに満足のいく会で、大阪大学から出席した若い先生方も、大変勉強になったとのコメントを頂いた。合同化に関しては金蔵、浅田両教授の会を移行期という事で合同開催にして頂くが、血管炎や血管腫の演題発表が可能で、かつ十分討論できる専門家の出席する会がないという現実や研究会という縛りのない会で十分討論できる会をもう一度という声が上がればまた新規の会を設立する選択肢も残して置きたい。ただ今後、後期専門医制度の中でアレルギー学会やリウマチ学会の位置づけが必ずしもはっきりしないことから、皮膚アレルギー、リウマチ、自己免疫疾患を3日間で学べ、討論できる会はこの学会くらいしかないのも現実で、その兼ね合いをどう考えていくのか、悩ましい。来年、もう一度討論すべきかもしれない。

以下一般演題で気の付いた点や今後の課題を記録しておく。血管炎 のセッションでは皮膚型の結節性多発動脈炎と分枝状皮斑、結節性多発動脈炎の異同や移行が論議された。本研究会で過去、多くの論議がなされた動脈炎(静脈炎?)を炎症と取るか循環障害と取るかの問題がまた繰り返された。 私が診療してきた方で全身型のPNに移行した方は記憶がなく、多くはLivedo with noduleの方が主体で、時に潰瘍、Atrophie Blancheが見られる方が多かった。また壊疽性膿皮症に近い病変が軽快、増悪を繰り返す方も経験したが、このような方はPSL5mg位の少量ステロイド剤で維持されているがPSL減量、中止が難しく、感染症や運動負荷で悪化するが全身的な血管炎には進展しない。潰瘍が悪化時にはケブネル的な小潰瘍が多発、新生し、静脈還流の悪い方が、上気道感染症などで悪化することが多い印象を持っている。演題5の墨東病院からの症例はPSL60mgで改善せず、胆管炎の治療で速やかに改善した壊疽性膿皮症に近い病変であり、リベド、静脈血栓、プロテインSの低下を認めた症例でやはり感染症の検討が必要とあらためて感じた。またAPSにワーファリンが使用されることが多いが演題15ではリベド疾患にノアックの使用例が報告された。クロピドグレルも含め皮膚のリベドに使用する例が今後増加すると考えられるが、PNなどの部分症状としてリベドの見られる場合もあり、血管炎が生じた場合のリスクなど常に念頭に置いておく必要がある。また皮膚IgA血管炎の単独例とIgA腎症単独例のIgA免疫複合体の対応抗原や沈着血管の異同などの検討が必要と考えられる。紫斑性腎炎という診断名もあり、チャペルヒル分類だとIgA陰性の紫斑性腎炎をどうするかの問題が解決されない。また従来アナフィラクトイド紫斑(Henoch- Schoenlein purpura)と診断されてきた紫斑病の罹患血管は毛細血管レベルでPost capillary venuleを中心に炎症が生じ、罹患血管は破壊と新生を繰り返し、血管壁の炎症を病理学的に認める事は難しいとされているが、もう少し深い静脈炎が見られるとのコメントがあり、質問した。これはLE profundus (Lupus panniculitis)やLE tumidusにも共通するが、SLEに生じる血管炎は最小血管から筋型動脈まであらゆる太さの血管が障害されることが知られており、その評価が難しい。病理学的にSLEに典型的な表皮・付属器の変化や特異抗体を認めず、臓器病変が見られない場合、特にその評価は困難で、治療法も簡単に決める事ができない。演題55のLupus panniculitisに脂肪移植を施行した症例の発表は興味深く、我々の施設でも形成外科に依頼して数例施行中で、ある程度患者さんの満足度の改善に貢献している。頭部のモルフェアの遊離皮弁など形成外科的治療を施行する場合、組織および検査上の活動性の評価が重要で、鑑別疾患と合わせ、質問したが、3年間病勢が変わらない症例に施行されたとのコメントがあった。またフロアから費用などの質問があったが、脂肪移植は美容外科領域で施行される場合、高額な医療費が派生するが、あくまで自由診療の中で難治疾患の治療という観点で施行頂いている。顔面の陥凹局面を呈する疾患ではLE profundus, Lupus panniculitis以外、モルフェアやロンバーグ病などの鑑別が必要であるが、さらにEBウイルス関連リンパ腫などの慎重な除外が必要である。今回、多くの症例提示があったヒドロキシクロロキンがリンパ球や好中球性炎症が主体のSLEの皮膚症状のみに効くのか、血管の炎症に伴う病変や臓器病変にも効くのかは今後検討して行く必要がある。
従来関節リウマチに見られる事が多い印象だった好中球性皮膚症がSLEでも見られることが報告されたが、その場合シェーグレン症候群の否定や皮膚症状の詳細な検討が重要と考える。演題20の高安動脈炎に伴ったバザン硬結性紅斑、演題41のワクチン接種後のNLEにおける皮疹の評価など病理組織も含めた診断名の妥当性が論議された。岡山大学の岩月教授からもLE profundusではリンフォーマである事も多く、頻回の病理検査が必要であることを強調されている。この他SLEや強皮症の診断基準がより厳密?になり、多様な皮膚症状や毛細血管の評価が必要になってきたが、これは専門医でも見た事も無い皮膚症状まで含まれ、IgA血管炎同様、そのような設備の無い所では診断もできないということになり、本末転倒の感を拭いきれない。皮膚筋炎は逆に特異抗体と臨床症状が密接に関連し、保険収載になった抗体検査も増え、臨床医にとっては大きな福音になると考える。今後はこのような自己抗体が皮膚症状や臓器障害とどう病因論的に結びつくかの検討が望まれる。その意味で我々の施設からも報告した慢性GVHDやヒトアジュバンド病の経過で様々な皮膚病変が見られるが、その時の自己抗体を経時的に検討して行くなどのアプローチが有益かもしれない。また今回、皮膚筋炎の嚥下障害が3題あったが、血管障害の強さや、非定型的な持続性の浮腫との関連性など今後解決すべき重要な症状と考える。以上、少し長くなったが、今年12月の合同開催に向けた会のあり方も含め、またご意見頂ければと思う。昨年の学会記ではやや悲観的な意見を述べたが、今回の参加者の熱気は次に繋がる新しい風を感じた。若い先生方の膠原病への積極的な取り組みが、さらにこの会を新たなスタイルで活性化し、生まれ変わる事を期待して、長年会の発展にご尽力されて来た神崎保先生、西岡清先生、そして西山茂夫先生へのお礼の言葉とさせて頂きたい。最後になるが合同化前の会頭としてご尽力頂いた山本俊幸教授と福島医大の先生方に心よりお礼を申しあげる。

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平成29年1月24日

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