教室関係コラム

2017.09.07

IPCC(International Pigment Cell Conference)2017

IPCC(International Pigment Cell Conference)2017
アメリカコロラド州デンバー
平成29年8月26日-30日

大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗

 デンバーで開催された第15回のIPCCに参加した。前回のシンガポール、前々回のボルドーに引き続き、3回目の参加になる。大阪大学からは私以外に種村、壽、高藤 の3名が参加した。デンバーにはロサンゼルスからの乗り継ぎで20時間近くかかり、入国手続きも含め、かなり消耗したが、到着ホテルロビーで近大の大磯先生と会い、先に着いていた壽先生とともに近くのオープンエアのレストランに繰り出し、デンバービールとバッファローバーガーを堪能した。翌日はボルドーから続いているVitiligoの治療効果判定基準策定の委員会が開催され、参加した。今回はあまり新しい話はなかったが、韓国のBae先生を中心に韓国、中国、台湾、日本で検討している新しい白斑治療効果判定法【VESTA】の中間検討結果が紹介され、活発に議論された。日常診療での煩雑さを避け、一か所の部位の判定であり、全身の病変の評価をどうするかが今後の課題かと考える。逆にTaiebからは全身写真をとり、コンピュータで画像解析する方法が紹介されたが、外陰部の病変の評価などで議論があった。
翌々日からの学会はSpritz会頭の挨拶で始まり、学長、Norrisの挨拶と続き、患者団体の代表の方から挨拶があった。色素細胞研究のレベルは高く、動物の皮膚模様がどう作られていくかなど興味深い講演が相次いだ。岐阜大の國定教授(前日本色素細胞学会理事長)と話したおり、メラノサイトがバルジ領域からどのような分子により表皮基底層に移動し、一定の間隔で分布するかお尋ねしたところ、ゼブラフィッシュの実験で、メラノサイトが隣どうしのDendriteが接触すると、そこで遊走が止まり定着する発表があったと教えていただいた。ただ何が表皮基底層に遊走させるかや、基底層に定着する機序は不明のことであった。教室の楊先生がやっているケラチノサイトとメラノサイトとの共培養実験で、少し面白い結果がでるかもしれない。また、MicroRNA-211 Regulates Oxidative Phosphorylation and Energy Metabolism in Human Vitiligoという興味深い演題がボルドー大学のTaieb教授のラボから出されていた。miR—211の発現が白斑病変部、ヒト白斑モデルメラノサイトで低下していること、その標的遺伝子PGC1-α、RRM2, TAOK1が増幅されていることが明らかにされた。これらの細胞では酸素消費の低下と活性酸素の上昇が見られ、その理由としてミトコンドリアの機能の低下によることが示唆された。我々も同様の機序からメラノサイトの酸化ストレスの抑制に、ある生薬成分の検討を行っており、参考になった。ただmiR-211がヒト白斑モデル細胞や、白斑病変部で低下する理由やミトコンドリアの機能障害機序は不明のようである。
私自身は、白斑で肥満細胞が基底層直下で増加し、時に表皮内に浸潤していること、また辺縁部で脱顆粒が著しく、白斑部周辺での色素増強にヒスタミンが関与している可能性やトリプターゼが基底膜を傷害することで、メラノサイトのアポトーシスやFloatingに関与する可能性を報告した。

 また2020年の第16回国際色素細胞学会が山形で鈴木民雄教授を会頭として開催されることになっているが、会場にその宣伝ブースが設置され、参加をよびかける山形大学の先生方の熱いメッセージが伝わってきた。成功に向け、日本色素細胞学会の結束が望まれる。

 今回は日本の色素細胞学会からのトラベルアオードが7名の若手研究者に送られたが、阪大からは脱色素性母斑の臨床的な検討を発表された高藤先生が授与された。また岡山理科大学の安藤先生のラボからは3人が授与された。今後の日本の色素細胞研究をリードする研究者が生まれることを願う次第である。

大阪大学皮膚科教授 片山一朗
平成29年9月7日

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