2016年 年報序文
大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗
2004年3月1日付けにて、大阪大学皮膚科学教室に着任し、来年には退官を迎えます。前任の長崎時代から毎年、年報を出していましたが、大阪に着任後も年報を出すことで、教室の目指す方向性の確認や軌道修正を行なうことができ、また若い先生の教室でのraison d’êtreの確認作業に少しは役に立ったかと思います。また2012年からは阪大皮膚科HPに教授コラムの寄稿を始めました。折々の皮膚科学を取り巻く話題への私の考えや、若い先生方へのメッセージを中心に不定期に寄稿していますが、全国の先生方や患者さん、看護師、MRさん、そして医局の先生のご家族からもコメントを頂いており、診療や教育の参考にしています。その他、HPでは教室員の学会見聞録や留学便りも楽しんで頂いているようです。来年からの年報やHPは次の時代を担って頂く方のMissionになるかと思います。教室の記録を残し、次の世代に伝えていくことは教室責任者の重要な仕事と考えます。
さて、2004年の新研修医制度の導入と大学院改革よる基礎医学講座のscrap後のbuildの成果がまだ見えてこないのが現状かと考えています。 トランプの登場で世界は二極化と孤立化が進んでいますが、少なくとも、我々の世界では新しい世代が育ちつつある事を日々実感しています。いつの時代でも、またどの世界でも輝いた眼を持つ若者は居り、次の時代を創りだしてくれると思います。私も批判精神に基づいた良き伝統の継承が第一と考え、40年近く、若い先生方と臨床、研究を楽しんできました。臨床医学も基礎医学もそうてすが、教室の歴史は、長い先人の築き上げて来られた伝統を批判的に吟味し、scrap buildを重ねて、人材を育て、研究を行ない、記録に残して行くことで初めて、次の時代に引きつがれて行くと確信しています。今、長い歴史を持つ皮膚科学という学問体系の将来がどうなるかの大きなターニングポイントの時期を迎えています。次の時代を切り拓いてくれる熱い、若い先生方の登場と活躍を期待しています。
最後に、今年三月に訪れた会津若松駅で眼にした言葉を書き留めておきたいと思います。会津を大阪大学皮膚科におきかえるとそのまま私の考えになります。
あいづっこ宣言
1.人をいたわります
2.ありがとう ごめんなさいを言います
3.がまんをします
4.卑怯なふるまいをしません
5.会津を誇り 年上を敬います
6.夢に向かってがんばります
やってはならぬ
やらねばならぬ
ならぬことは
ならぬものです
白斑の貴婦人
この図譜は、一昨年、英国オックスフォード大学名誉教授のライアン先生を訪問した折りに、偶然彼の蔵書の中から見つけた25才の白斑患者のアトラス像である。手首から発症し、次第に前腕、顔面に拡大したと記載してある。最初にこの図譜を見た時に感じたのはロドデノール白斑との類似性で、実際、Duhringはこの患者の特徴として白斑辺縁の正常皮膚の色素増強を強調している。この理由は現在、私も検討しており興味深いデータを得つつある。また白斑患者では露光部に長年病変があるにも関わらず、有棘細胞ガンなどの皮膚ガンの発生をほとんど見ないことや光老化の変化が乏しく、若々しい皮膚を維持している方が多いことが挙げられる。白斑はありふれた疾患ではあるが140年前から基本的な治療法もあまり進化していない。しかしその病因論は近年急速に進歩しており、わたしも継続して白斑の病態解明と新規治療の開発に取り組んで行きたいと、定年を前にして考えている。
「Vitiligo 」 Atlas of Skin Diseases、1876年、米国Lippincott社刊
(Aouis A Duhring, ペンシルバニア大学教授監修)
大阪大学皮膚科教授 片山一朗
平成29年9月25日