教室関係コラム

2017.10.24

9th IFSI International Federation of Society of Itch

9th IFSI International Federation of Society of Itch
President: Prof. Jacek Szepietowski. Department of Dermatology Wroclaw University
ヴロツワフ大学皮膚科教授
Venue: Novotel Hotel Wroclaw
Date:2017. Oct 15-17

大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗

痒みの研究者が世界から集まるユニークな学会IFSIに参加した。基礎生理、薬理、解剖、臨床からは皮膚科、麻酔科、神経内科、腎臓内科、消化器内科など実に多様な参加者が2年に一度集まり、痒みの基礎から臨床までを幅広く発表、討論する面白い学会である。過去第5回大会の東京(高森健二順天堂大教授が会頭)、からブレスト(フランス)、ボストン、奈良(会頭を務めた)まで参加してきた。この間、痒みの研究は大きく進み、治療薬もいくつか登場してきた。今回の発表の中では先ず、IL4Rがマウス、ヒトともに脊髄後角(DRG)に存在し、慢性の痒み刺激に反応する報告が興味を引いた。今年のCell (2017, 171:1-12)に発表されたこともあり多くの聴衆の注目を集めたが、講演したワシントン大学Itch centerのZhou-Feng Chenは今売り出し中の若手の痒み研究者で、今後世界の痒み研究をリードしてくれる素晴らしい人材と期待する。前回の奈良で九大の津田先生のグループからアトピー性皮膚炎のモデルマウスで皮膚炎症部の支配領域の脊髄でSTAT3依存性のAstrocyte由来Lipocalin2がgastrin-releasing peptide(GRP)による痒み刺激を増幅するという興味深い発表があったが、今回の発表は今後のJAK 阻害薬やSTAT3,STAT6などの分子標的薬の開発に大きく貢献するかと考える。ただビタミンD誘発性のアトピー性皮膚炎モデルの痒みを慢性の痒みとしていることや、Th2サイトカインであるIL4がどのように脊髄に移行していくかは不明である。可能性としては脊髄後角でIL4が作られるのかもしれない。Dupilumab (Anti-IL4Rα)の標的がTh2細胞や肥満細胞以外、痒み認知に直接関与するDRGのIL4Rに作用し、痒みに効果を発揮すると考えられるが、IL31との優先順位やIL4がどのようにDRGに届くかなど興味深い。Johns Hopkins 大学神経科学教室のXinzhong Dong はサブスタンスPやエンドテリンなどのペプチド刺激によるマウス腹腔マスト細胞の脱顆粒にIgEを介する機序とは別にMrgprb2を介する機構があることを綺麗に証明されていた。彼はまた喉頭や気道の痒み(OASなどでの違和感に相当?)が迷走神経節の同様のMrgを介する機構が存在する可能性を報告していた。このほか順天堂大学の古宮先生は表皮ケラチノサイトがDPP4(CD26)を発現し、基質であるサブスタンスPを切断し、その分解物SP5-11が乾癬の血清中で増加すること、DPP4阻害薬がイミキモド誘発性乾癬モデルマウスの痒みを抑制する機序を発表されていた。このSP5-11はNK1受容体にAgonisticに作用するようである (JDS 2017 86 212-221)。全体的にはNK1阻害薬やPDE4阻害薬などの新規痒み治療薬に関する臨床開発試験の結果やバイオ製剤、JAK阻害薬を意識した乾癬の発表が多く、メーカ―主導の学会になりつつある危惧を感じた。また痒疹に関しても新たな治療薬の登場を意識した新たな分類や治療指針があった。阪大からは私以外に室田、松本、奥田先生が参加した。特に松本さんは室田先生指導の11βHSD1のケラチノサイト特異的ノックアウトマウスでクロロキン、ヒスタミン誘発性のAllonesis が増強することや末梢神経が表皮内に伸長すること綺麗に証明された。私はステロイドWithdrawalに長期ステロイド外用による11βHSD1のDownregulationと外用中止による表皮コーチゾールプールの急激な減少が関与する可能性を報告した。

初日の理事会の前に、Worclaw大学の皮膚科を訪問し、ムラージュなどの展示館や図書館を見学させていただいた。ヴロツワフ大学は、1702年に設立され、中央ヨーロッパ最古の高等教育機関のひとつとされる。ドイツ語ではBreslau。ポーランドもドイツ皮膚科学の流れを汲み、一つの建物に研究室、病棟があり機能的であるが、エレベーターがなく移動は結構大変だった。ムラージュはハンセン病などの感染症が多く展示してあり、ここでウイーン大学留学中に一年を過ごした土肥慶三の写真や1877〜1884年まで主任を務めたHeinrich Koebnerの写真があった。また有名な細菌学者ポール・エーリッヒもWroclaw University の卒業とのことである。

Jacek教授は、Gala dinnerをWroclaw大学病院博物館で開催された

アトラクションなどもショパンコンクールの若手入賞者やアカペラなど盛りだくさんの内容であった。後で聞くと事務局長のアダム教授からアトラクションなど室田先生に問い合わせがあったようである。
 Wroclawの街はいたるところに小人の像がかくれており、小人探しツアーが人気のようだった。2002年頃に民主化の流れで作られその後、商店などが宣伝用にも作ることが認可され、広まったようで、我々もたくさんの人形に出会うことができた。

 

  • Wroclaw 大学病院前、小人教授の像

  • 観光案内所?

  • Wroclaw University 皮膚科棟

  • 夜の市庁舎前

IFSI の機関誌で痒み研究雑誌「Itch」が刊行された。 ハーバード大学皮膚科のEthan Lernerが編集長で、論文を募集中である。

最後になるが、痒みの研究は皮膚科医にとり、大変重要な研究領域であるが、残念ながら、本学会への皮膚科医の参加は少なく、我々以外では慈恵医大の石氏先生グループ、順天堂浦安病院の高森教授グループ、九大の中原先生、東京都の江畑先生など極めて少数であった。この理由は「痒み」が皮疹を伴わない症候であること(もちろんアトピー性皮膚炎を筆頭に多数の疾患がある)、研究手法が複雑で、なじみのない用語が多いなどいくつかの理由があるかとは思うが、2017年の皮膚科領域での主な研究が製薬会社主導の場当たり的なものに変わりつつあることにその本質があるのかと考える。最近読んだ大阪大学医学部の尊敬する仲野徹教授のエッセイを読んでいると、先端基礎医学研究の現状が皮膚科のメガファーマ主導臨床研究に当てはまることがあまりに多く、驚いた。以下参考までに私が共感する、そのエッセンスを列挙するので、また内田先生の本を手に取って全文を読んで頂きたい。

出典:内田樹篇 日本の反知性主義(晶文社;2015年刊)
著者:仲野徹 大阪大学大学院医学系研究科教授
タイトル:科学の進歩にともなう「反知性主義」

仲野先生の修業時代の研究手法とは? 「思えば不親切な時代であった。経験に基づいた伝統技みたいなところも多くて、論理的に考えておかしいと思えるようなこともいろいろあった。しかし、それだけに創意工夫する余地がたくさんあって、いろいろなことを工夫しながら改善していくのがいいトレーニングになっていた。下働きという単純作業をこなしながら、ぼんやりと研究について思いをはせるというのも、ぜいたくな時間の使い方であった。そういう時に不思議といいアイデアが浮かんだものである。一方、教える側からは、そのような作業をさせてみるだけで、きちんと考えるようになる子かどうか、いい研究者になるかどうかおおよその見当がついた。」

→ 本当にそう思います。  最近の若い人の研究のトレンドは? 「しかし、標準化や定型化といった方向性が示されていれば、それにしたがって研究をおこなうことが前提になる。考える必要がないとまでは言わないが、創意工夫のはいる余地が少なくなってきてしまっている、すなわち、型が大事になって、個人の「知性」があまり必要でなくなってきているのだ。 そんな研究はあまりおもしろいとは感じられないのであるが、やらねば競争に負けてしまうので、やらざるをえない。もちろん、そのような解析には、かなりのお金がかかるし、すべてを自分のところではできないので、アウトソーシングすることもある。いわば、知性の外注だ。20〜30年前に比べると、一流雑誌に掲載するためのデータの量は、少なくとも4〜5倍、下手すれば10倍にもなっているはずだ。経験のある研究者が“常識”として言及すらしないような基本的なバックグラウンドが理解できていないこともある。」

→ 博士論文をだすにも大変な労力と資金力がいるが、Rejectが繰り返されているうちに、先をこされてしまう。 「近年、業績至上主義がどんどん厳しくなってきている。業績のある人を採用したいのは、どの組織だって同じことだし、業績はあった方がいいに決まっている。しかし、数値的に評価が可能な業績のある人材を採用することと、知性にあふれた人材を採用することとは必ずしも等価ではない。本当に偉くて尊敬すべきなのは、業績や研究費ではなくて、「なんやわからんけど知性があふれていそうで偉さを感じさせてくれる先生」のはずだ。その大きな流れに抗うには、新しい技術に振り回されすぎたり、情報検索に教えられすぎたり、目的にしばられすぎたりすることを意識的に回避しながら、自分の頭でしっかり考えるということを徹底していくしかない。同時に、一般の人が科学に対する反知性主義に陥らないように説明する必要もある」。

→ 仲野先生はつい最近も晶文社から「こわいもの知らずの病理学講義」という素晴らしい臨床講義録を上梓され、早くも六刷を超えたそうである。この本を読めば、我々臨床医にも、最近の病理学研究の流れがよくわかるし、このような素晴らしい講義を受けることのできる大阪大学医学部の学生は大変幸せである。今後、多くの優れた医師が仲野スクールから誕生することを確信する。皮膚科はまだ手作りの研究が可能な数少ない臨床科です。是非,個人の「知性」に基づいたオリジナルで夢のある研究を始めてください。

→ ※下線部(片山)

大阪大学皮膚科教授 片山一朗
平成29年10月24日

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