Festina lente. 悠々として急げ
大阪大学大学院医学系研究科分子病態医学
皮膚科教授 片山一朗
今年も大阪大学皮膚科学教室に新しい仲間を迎える事ができ、4月3日、銀杏会館で歓迎会を開きました。ここ数年、春先は日本皮膚科学会、日本アレルギー学会などの会頭として準備に時間をとられ、新しく来られた先生方とゆっくり話しをする機会がありませんでしたが、久しぶりに歓迎の挨拶をさせて頂きました。出身大学、経歴は皆さんさまざまですが、これからの長い医師人生の中では大阪大学皮膚科が皆さんの皮膚科医としてのハヴになります。
昔、私が北大の学生時代にベストセラーになった小説に五木寛之の「デラシネの旗」があります。「デラシネ」(フランス語:déraciné)は「根無し草」という意味で,我々の世代は彼の生き方に共感を示した者もたくさんいました。私自身も北大を卒業後、大阪大、北里大、東京医科歯科大、長崎大と全国を転々とし、そのつど自分を「デラシネ」的な存在と思ってきましたが、皮膚科医としての行動規範のルーツは常に大阪大学皮膚科で受けた教育や先輩、同僚の先生達との交流だったような気がしています。新研修システムが始まった2004年より、医師としての最初のImprintingを受ける大切な時期に2年間の細切れ教育を受けざるを得ない、また大学医局で多様な価値観を持つ先輩、同僚との交流を持たずにストレート研修病院で医師となる最近の若い医師達をみていると、彼らが10年後、20年後一体何を頼りに医師として生きて行くのか、やや不安に思う時があり、先の「デラシネ」という言葉を最近とみに思い出します。その是非には論議があり、良い悪いは簡単には言えませんが、私自身、一人前の医師になるには良い意味での徒弟制度が不可欠であり、多くの先輩、同僚と議論を深め、他大学、他分野の先生と交流して技量を深かめて行く事が必要と考えています。今年我々の仲間になった先生には是非、それぞれの思い描く医師、そして皮膚科医になって頂きたいと思います。ただこれからの長い医師人生の中で時に大きな障害、壁が立ちふさがるか思います。その時には一歩後戻りして,考える事を勧めます。無理に進むと視野はその分狭くなりますが、一歩引く事で視野は逆に広がります。私の好きな言葉に「悠々として急げ」があります。開高健の言葉として有名になりましたがもともとはローマ帝国初代皇帝アウグストゥスの座右の銘とのことで、困ったこと、予期せぬ出来事が起こった時、研究、臨床で行き詰まった時にはこの言葉を思い出します。今全国の大学では新人が何年も入ってこない皮膚科教室が増えていることを聞きますが、改めてその責任の重さを感じるとともに、多くの皆さんと一緒に皮膚科医として働けることに感謝して、歓迎の言葉にしたいと思います。
大阪大学皮膚科 片山一朗
平成25年4月18日一部修正