第112回日本皮膚科学会総会
会頭 川島 眞 東京女子医科大学教授
会場 パシフィコ横浜
会期 2013年6月14日~16日
テーマ -いま望まれる皮膚科心療-
大阪大学大学院医学系研究科分子病態医学
皮膚科教授 片山一朗
第112回日本皮膚科学会総会が6月14日から6月16日までの3日間、横浜パシフィコで開催された。会頭の川島眞教授、事務局長の石黒直子先生、実行委員長の常深裕一郎先生には5,000人を越す参加者を迎えられ、大成功のうちに大会を終えられたこと、心よりお祝いと御礼申し上げる次第である。特に2年前の110回大会が東北大震災のために中止となり、開催まで、緊張の連続であったかと思います、御苦労様でした。
学術大会は例年通り川島教授の会頭講演から開始された。座長を務められた肥田野信先生は80歳を越えてもお元気で、原稿無しで川島先生の御略歴を紹介された。講演では川島先生御自身で開拓された皮膚科領域でのパピローマウイルス研究、バリア病としてのアトピー性皮膚炎の提唱、そして大会のメインテーマである皮膚病診療における心の問題を述べられた。また御逝去された久木田淳先生が総会を大変楽しみにされていたことや研修医の頃の懐かしい写真も紹介された。
学会はパシフィコ横浜での教育講演、スポンサードセミナーと展示場でのポスター発表に分かれていたが、天候に概ね恵まれ、2会場を行き来する参加者も多かった。印象に残った講演としては今年の皆見賞を受賞された山梨大学の川村龍吉先生の実験的亜鉛欠乏症の講演が挙げられる。彼の研究の中心は、故玉置邦彦先生、古江増隆先生が山梨医大におられた頃に指導を受けられたランゲルハンス細胞の研究で、その後留学されたNIHでHIV研究も大いに発展させられた。その中でマウスを亜鉛欠乏食で飼育すると皮膚炎が生じるが、その際に表皮からランゲルハンス細胞が消失することを見いだされたことから本研究を開始されたようである。クロトンオイルで生じる一次刺激性皮膚炎が亜鉛欠乏で悪化するさい、表皮細胞から産生されるATPによる細胞障害が生じること、野生型マウスではATP産生をランゲルハンス細胞由来のCD39が抑制するが、亜鉛欠乏マウスではランゲルハンス細胞の消失にともない、その抑制機序が低下することで皮膚炎が悪化することを見事に証明された。数年前に彼から人の亜鉛欠乏症のサンプルが充分手に入らず、reviseのまま論文受理が進んでいないことを相談された。その時に30数年前に私が研修医であった頃担当し、発表したAcrodermatitis enteropathicaとZinc deficiencyの症例を思い出し、西田技官に探して貰ったところ、ブロック標本が残っており、無事彼に提供することができた。今回、臨床検体を整理し、保存しておくこと、論文とし記録しておくことの重要さを再認識すると同時に、古典的な亜鉛華軟膏の作用機序を今日的な視点で見事に解明された川村先生の受賞に心より拍手を送りたい。
講演される川村先生と座長の島田先生
また最終日のランチョンセミナーで教室の室田浩之先生が講演した「汗と温度の指導箋」は広い第一会場がほぼ満席になるほどの盛況で、ここ数年の教室の研究成果を見事に纏めて貰った。広島大学から汗の成分中に癜風菌由来抗原が含まれ、アトピー性皮膚炎の悪化に関与するとのテレビ報道や精製汗抗原特異的IgE ELISAの測定法の開発が最優秀ポスター賞に選考されたこともあり、多くの聴衆が来られたのかと推察する。汗抗原の解析は今後も継続して検証されるべき点が多くあると考えるが、今まであまり関心の払われて来なかった皮膚疾患における汗の役割に多くの皮膚科医が興味を示しだしたことは大いに歓迎すべきことであり、室田先生にはさらなる研究の進展を期待したい。
最終日、最後の女性医師問題のセッションに途中から出席したが、演者の先生方の熱意が感じられる講演内容であった。今まで、形式を変えてさまざまな視点からこの会をリードされてきた塩原先生、橋本先生に御礼を申し上げると共に、今後はより具体的な女性医師復帰支援策を行政に働きかけていく必要があると感じた。また私の経験からは、女性医師のみが参加するのではなくそのパートナーや子供の面倒を見て貰っている方などにも参加していただき、女性医師のみならず、病院皮膚科診療の現状を理解していただくことも今後重要と考える。その意味で竹田総合病院皮膚科の岸本先生が呈示された内容(P8-2)は重い課題として心に残った。教育講演は私が参加した幾つかのセッションで、従来の壁を破り、若手講師が御自身の研究の最新の内容も発表されており、我々にも楽しめる内容であった。来年の113回の総会会頭である、岩月教授もあらたな形式の教育講演を考えておられているようで、楽しみにしている。
一般演題はすべてポスター発表であり、今回もデジタルポスターが採用されていた。教室の早石祥子先生が見事にポスター賞を受賞され、懇親会で受賞者を代表して、賞状を授与され、早速阪大皮膚科ホームページにアップされていた。
東大阪市立総合病院時代の症例を丁寧に検討され、その後110回大会への発表予定が中止になり、より時間をかけて大阪大学皮膚科の症例を纏めて貰った成果が受賞となったことで今回の受賞はなによりの贈り物であった。すべてのポスターを見て回ったが大阪大学からの発表ポスターはすべて質も高く、良く検討された内容であり、皆さんの努力にあらためて拍手を送りたい。あとは是非英語での論文化を待ちたい。
参加された皆さん、また留守を守ってくれた先生方お疲れ様でした。
大阪大学大学院情報統合医学皮膚科 片山一朗
平成25年6月18日掲載