教室関係コラム

2013.09.27

7th World Congress of Itch (WCI)

7th World Congress of Itch (WCI)
Boston World Trade Center. September 21-23
President: Ethan A Lerner

大阪大学大学院医学系研究科分子病態医学
皮膚科教授 片山一朗

 第7回世界痒み学会 (WCI)に参加した。この学会は2005年、9月に「痒み」の研究に興味を持つ21人の先生が設立された学会で、日本からは富山大学薬学部の倉石泰教授、京都大学(当時)の生駒晃彦先生、九州大学の古江増隆教授、東京都の江畑俊哉先生、順天堂大学の高森健二教授、海外ではSonja Staender,(ドイツ) Jacek C. Szepietowski(ポーランド), Earl Carsten(米国)、Gil Yosipovitch(米国)などの先生方が中心となり運営されてきた。現在の日本人会員数は米国の30人についで23人と多く、会の中心的な存在となっている。今回私もBoard メンバーに加えて頂き、2015年9月下旬に、第8回学会を奈良で開催することが決まった。事務局長は教室の室田浩之先生が担当し、今後日程、プログラムなどは大阪大学医学部皮膚科学教室のホームページでも順次アップしていく予定である。

理事会で2015年の学会プレゼンをする室田先生

会場のSeaside World Trade Center

 この学会は痒みに興味を持つ研究者ということで、神経解剖、神経生理の先生の参加が多く、その他薬理学、麻酔科医、皮膚科医、公衆衛生・疫学研究者、企業の方が会員の主体をなす。ただ、皮膚科医は少なく、アトピー性皮膚炎やアレルギーが専門の先生はほとんど見かけず、今後臨床系の会員を増やすことが重要な課題と考える。
学会前日は午後から理事会が開かれ、私も参加したが皆さん主張が激しく、なかなかこちらの意見を通すのが難しく、これも今後の検討課題となった。夕方からはKuraishi Distinguished Lectureなどの特別講演が2つあり、その後Welcome partyが開催された。
翌日は朝8時からボストンのWorld Trade Center の2会場で2日間の学会が始まった。今回の演題の大きな流れは、臨床では、腎透析、胆汁鬱滞、悪性腫瘍など全身疾患にともなうカユミの病態と治療、カユミの評価法などが創薬に向けて活発に討論された。基礎では●ヒスタミン受容体とは異なる、あらたな知覚神経のカユミ受容体であるMrgprs (Mas-related G-protein-coupled receptors、MrgprsA3はクロロキン、BAM8-22など、MrgprsDはβアラニンなどがリガンドとなる)やNPPB (natriuretic peptide B, NPPBとその受容体を欠いたマウスにGRPを注入すると、痒みへの強い反応を示し、またGRP受容体を欠いたマウスはNppbを脊髄へと注入しても痒みへの反応を示さない)の報告●TLR4欠損マウスでドライスキンにともなうカユミが減弱する●Th2シフトに関与するTSLPがPAR2で活性化されるCa依存性のORAI1/NFATによりケラチノサイトから産生され、直接末梢神経に作用する(特にこの研究が皮膚科医から報告されたことに驚いた)●κ受容体アゴニストである内因性オピオイドのDynorpyin Aがカユミの新しい伝達系であるGastrin releasing peptide(GRP)とβEndrphinの2つの異なる伝達系のカユミを抑制するなどの興味深い発表があった。
学会終了後はケネデイ博物館にバスで移動し、懇親会が開催された。夜遅くまで素晴らしい食事と音楽を楽しみながら学会の続きの熱い議論が続いた。

翌日も終日学会に参加し、山賀先生が初めての海外の学会デビューをされ、
質問にも明確に答えられていた。

 今回の会頭のEthan Lerner教授は有名なマサチセッツ総合病院(MGP)の皮膚生理部門の教授で日本の資生堂の研究者とも親しく、大変気さくな方で、司会進行を一人ですべてこなされていた。会場となったWorld Trade Centerは港に面した近代的な施設で、ボストンの旧市街からは少し離れており、学会に参加された先生方を充分案内できず、申し訳ないと仰っていた。カユミ感覚は痛みとは異なり軽視されがちで皮膚科医の参加も少なかったが、特に内科疾患にともなうカユミは内科や麻酔科の医者が大変、精力的に研究を進めており、このままでは皮膚科医の存在価値がなくなるのではと危惧した学会でもあった.帰路ニューヨークに立ち寄り、来年大阪大学が担当する研究皮膚科学会で谷奥記念講演を行うコロンビア大学のAngela Christiano教授を訪問した。彼女は玉井先生ともどもUitto教授の弟子にあたり、研究領域は表皮水疱症の再生医療、最近では家族性の脱毛症の研究をされている。阪大から留学されている梅垣先生はRevertant mosaicismの患者皮膚からiPS細胞を樹立し、その臨床応用の研究を進めており、セミナーで最新の成果を聞かせて頂いた。阪大からも室田先生、山賀先生が講演し、多くの聴講者と討論し、大変有意義な訪問となった。Angela教授は20年前の京都で開催された世界研究皮膚科学会に来られたのみで、2回目の来日となる来年12月の講演を今から楽しみにしている。

大阪大学大学院情報統合医学皮膚科 片山一朗
平成25年9月27日掲載

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