教室関係コラム

2013.10.21

天王山カンファレンスの終了にあたって

天王山カンファレンスの終了にあたって

大阪大学大学院医学系研究科分子病態医学
皮膚科教授 片山一朗

第10回天王山カンファレンス
日時:平成25年10月19日(土曜日)15:00‐17:00
場所:京都大学楽友会館 2F 講演室
京都市左京区吉田2本松町

 今回で最後となる第10回天王山カンファレンスが平成10月19日(土)に開催され参加した。時代祭前であり、また小雨ということもあり、四条河原町から木屋町にかけても比較的、人並みは少なく、しばらく高瀬川の川辺を散策したのち会場である京都大学楽友会館(写真左)に向かった。大正後期に建てられた建物ということで高い天井とシャンデリアがその歴史を今に伝えていた。また世話人会の部屋と間違えて入りかけた部屋では、数組の外国人を交えた方がカード遊びをしておられ、あらためて京都大学の懐の深さを感じた次第である。
 さてこの天王山カンファレンスは2004年に私が大阪大学に着任したおり、宮地教授から京大と阪大で若手の研究会をやろうということで始まり、今回の十回で一応、閉会となり、来年度からは新たな世話人を中心により若手が参加しやすい会に模様替えとなる。
 第一回が始まった2004年はスーパーローテートが開始された年で、新入医局員はなく、また大学院生は殆どおらず、どうなるかと思いつつ、宮地教授の申し入れを受け入れた。京大と阪大で交互に開催し、若手中心の研究発表と相互の研究者の交流を目的としたこの会は当初、両大学2演題づつの計4題の演題発表から始まったが、その後大学院生や留学生も増え、質の高い会として毎回参加するのが楽しみになった。会の名前の「天王山カンファレンス」は豊臣秀吉と明智光秀の山崎の合戦にちなみ宮地教授がつけられたが、宮地教授の総括では京大と阪大の合戦は一応引き分けと言うことにして頂いた。
 さて私自身この会の閉会にあたり、この10年を振り返ってみた。スーパーローテート開始後、日本の医療は大きく変わり、地域格差、診療間格差が大きく進み、また基礎研究室への大学院生の進学者とMD研究者の減少、そして海外留学者の大幅な衰退傾向が顕著になってきた。大阪大学でも一時期その傾向は明らかで、時に平野医学部長(現総長)が基礎教室はシャッター通り化していると揶揄されることもあった。ただここ数年カリキュラムの改変やあらたなMD、PhDシステムの導入、初期研修の見直し、研究費の増額などで、少し明るい日射しが見えてきたのではないかと考えている。我々の皮膚科教室においても、若い先生の研究へのモチベーションは着任時にくらべて上がっていると思うし、現在6名が海外でポスドク生活をエンジョイ?している。これらの良い流れは関連病院部長の協力と若手指導に尽力頂いているスタッフの先生の努力によるところが大であるが、もう一つの大きな力はやはり若い先生が天王山カンファレンスで発表した自信とそのあと相互の医局でFace to Faceで顔の見える議論を深められたことによる研究の楽しさと苦しさを肌で感じられたことに寄るところが大きいと考えている。この意味でも宮地教授にはあらためて感謝したい。
 ただ最近驚いたこととして、9月のボストンの学会に参加した時、ハーバードのDavid FisherがPediatric oncologistとして紹介されたこと、Research Gateで勤務先の選択肢をクリックするとDivision of Dermatologyと出てきたことである。米国の皮膚科の人気は高く、毎年少数の優秀な学生が皮膚科医を選択するらしいが、彼らは研究よりもより安定した臨床医の路を歩むらしいと聞いたことがある。また訴訟のリスクが高い米国式の医療システムの中では自分の専門以外の患者は見なくなっているらしく、ハーバードでもDay surgeryとPhDによる研究が中心になっていると仄聞する。結果として皮膚科の守備範囲は狭くなり、DepartmentがDivisionに格下げされたのかと納得したした次第である。この傾向はドイツでもみられるようで、かつてBraun Falco教授の頃、病床数200床を越すことで知られていたミュンヘン大学皮膚科も代が変わるにつれその病床数は半分づつ減り、現在は50床を切るところまできているそうである。安定から衰退への路は驚くほど簡単に進むことはかつての歴史が教えている。大きく変わる医療環境や社会制度の中で皮膚科医が胸を張って診療を行い、臨床の疑問に基づいた基礎研究を通して、創薬や他科に貢献し、結果として新たな生命現象の謎を解明することで皮膚科医の存在価値を高めることは可能と考える。そのためには天王山カンファレンスに参加してきた若い先生方が叡智を持ち寄り、次の時代の皮膚科学を創出して頂きたいと願う次第である。
宮地先生ありがとうございました。

第1回天王山カンファレンスプログラム 平成16年10月16日 担当:大阪大

第10回天王山カンファレンスプログラム平成25年10月19日 担当:京都大

大阪大学大学院情報統合医学皮膚科 片山一朗
平成25年10月21日掲載

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