教室関係コラム

2013.11.14

2013年支部総会(西日本支部、中部支部)

2013年支部総会

大阪大学大学院医学系研究科分子病態医学
皮膚科教授 片山一朗

第64回日本皮膚科学会中部支部学術大会
会長:松永佳世子 名古屋保健衛生大学教授
会場:名古屋国際会議場  会期:2013年11月2-3日
テーマ「早く、きれいに、親切に、適切な医療費で治す:皮膚科のQuality Indicator 医療の質を考えよう」

第65回日本皮膚科学会西部支部学術大会
会長:金蔵拓郎 鹿児島大学教授
会場:鹿児島県民交流センター
会期:2013年11月9-10日
テーマ「原点回帰」

 毎年9-10月は日本皮膚科学会の3支部学術大会が開催されるが、今年は3
つの大会のうち中部支部と西部支部総会に参加する機会があった。それぞれの会で印象的だった講演を聞いて感じたことを記録しておきたい。

第64回日本皮膚科学会中部支部学術大会
 会長の松永佳世子教授は接触皮膚炎の研究でご高名であり、パッチテストの標準化や医薬品・医薬部外品などによる健康被害調査研究にも積極的に参画されている。本学会でも「茶の雫石鹸」、「美白化粧品による白斑」など講演があり、活発な討論が行われた。大会のテーマ「早く、きれいに、親切に、適切な医療費で治す:皮膚科のQuality Indicator 医療の質を考えよう」に沿い、それぞれのセッションで会長推薦の特別講師が皮膚疾患のQuality Indicatorをどう評価し、臨床に応用していくかを述べられた。

 内科疾患などに比べ、皮膚疾患は数値による評価が難しく、今後乾癬のPASIやアトピー性皮膚炎などの痒みのVAS、DLQIなどを指標とした治療の質の評価が行われていくかと考える。ただこの分野で先駆的な方である聖路加国際病院の福井次矢病院長のお話を聞いたが、あまり個々の医師の評価を厳密にするとガイドライン同様、医師の裁量権が失われ、結果として医療の質が低下する危険性が生じるかもしれない。特に米国の医療に追従している今の日本の医療ではTPPの導入が本格化すれば、大手保険会社の評価基準により、使用できる医療が極端に制限されることも危惧され、経営効率と医師の裁量権のバランスをどうとるのか、結果として患者の不利益が生じないかなどの議論がもっと必要と感じたのは私だけではなかったのではないかと思う。大阪大学からは、吉岡先生がEctodermal dysplasiaでの発汗障害、村上先生がBirt-Hogg-Dube syndromeをいづれも金田真理先生の指導で報告された。前者はEDARADD遺伝子、後者はFolliclulin遺伝子の変異が証明された。近年Hypohidrotic/anhidrotic ectodermal dysplasia患者が高頻度にアトピー性皮膚炎様症状を呈することが報告され、注目されている。吉岡先生の他の同疾患患者での解析でもフィラグリン遺伝子変異はないようで、むしろ乏汗による角層水分量の低下などが皮膚炎発症に関与する可能性が考えられ、現在検討中である。またBirt-Hogg-Dube syndromeは金田先生のライフワークである結節性硬化症の近縁疾患で、やはりmTOR関連分子の異常により腎腫瘍などが生じる。皮膚病変としてはFibrofolliculoma, Fibrous papule of the noseなど顔面に過誤腫様の小結節が多発することで注意が必要である。

 第65回日本皮膚科学会西部支部学術大会はテーマが「原点回帰」ということでプログラムの表紙にも「原点回帰じゃっど」と呟いている、温泉で芋焼酎を飲んでいる薩摩黒豚のイラストが描かれ、参加者の評判も上々であったと聞いた。
 金蔵会頭の原点回帰は、西部支部を中心とした大学を代表とする若手先生方の研究発表による3つのシンポジウムと臨床に特化した一般演題に示されていた。スーパーローテート開始後のマンパワー不足により西部支部でも若手指導医の減少により大きな影響が出ていると聞いていたが、そのような中、基礎研究と皮膚科の臨床への回帰をテーマとされた金倉会頭の思いが伝わる大会であった。シンポジウムで聞いた講演では、特に島根大の千貫先生のお話しが強く印象に残った。Molecular allergology としてアレルゲンコンポーネントの測定の重要さを強調され、また今話題の獣肉アレルギーとセツキシマブ(EGF阻害分子標的薬)、子持ちカレイのアナフィラキシーに共通してαGAL-αGALの糖鎖2分子がアレルゲンとなる可能性を示された。さらに血液型がAB型とB型はαGAL-αGALの糖鎖を持つことより免疫寛容となり、O型とA型はαGAL一分子であることからこのアレルギーのリスクが高くなることを報告された。ちなみに千貫先生はリスクあり、師匠の森田教授はリスク無しとのことであった。
 大阪大学からは林先生がツ反により急性増悪した膿疱性乾癬、加藤先生がモガムリズマブ(抗CCR4抗体)により治療したATLの3例を発表した。いづれも活発な討論が行われ、特にATLに関しては翌日のモーニングセミナーでも大阪大学の症例が取り上げられ、今後腫瘤型のATLへの効果検討やMFへの適応拡大が話題となった。鹿児島は島津藩〜明治維新の史跡も多く残され、皆さん学会の合間に散策され、鹿児島の食も堪能されたようである。私自身は帰りのタクシーが高速出口5キロ位から変な振動と大きな破裂音を起こし、エンストしてしまった。タクシーが爆発するのではとの危惧と飛行機に乗り遅れるとの心配で、久し振りに焦ったが、幸い通りかかった一台の車がわざわざ、破裂音を聞きつけ、バックで戻って下さり、親切なドライバーの方に空港まで送っていただいた。腎臓内科の先生とのことであったが、翌日大学に行くと小豆澤先生に彼からメールがあったようで、小豆澤先生の大学の同窓生と言うことがわかり、その偶然と無事帰宅出来たことにあらためて感謝した次第である。これも桜島の御利益とあらためて金蔵会頭に御礼を申し上げたい。

大阪大学大学院情報統合医学皮膚科 片山一朗
平成25年11月14日掲載

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