誤診し易い皮膚疾患
大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗
西山茂夫先生の名著「誤診し易い皮膚疾患」(金原出版、1968)(写真1)が皮膚病診療誌の増刊号として再版された(写真2)。この教本は我々の世代より10年以上先輩の先生方が良く読まれていたそうで、長い間、絶版のままであったが、今回、井上勝平宮崎医大名誉教授のご尽力で若い先生方にも読んで貰えることとなった。私自身、学生時代は上野賢一先生の「皮膚科学」(Minor Dermatology金芳堂)、皮膚科医になってからはTextbook of Dermatology (Rookの教本 Blackwell)などを良く読んだ。幸か不幸か西山先生のこの教本は1996年に長崎大學に行くまで知らず、また手に入れることも困難で、同じく名著の誉れの高い「皮膚病アトラス」(文光堂)で勉強させて頂いていた。いつ頃か忘れたが、日本医大教授の幸野健先生がこの教本をコピーで読んでいるとの話を聞き、私もアマゾンで手に入れた(写真)。西山先生が今回の改訂版の前書きで書かれているが、原著は通勤途中の電車の中で、僅か3週間で執筆されたそうで、写真は一葉も使用されていなかった。今回の改訂版では西山コレクションからたくさんのカラー臨床写真が掲載されており、簡潔な説明とあわせ、読みやすく編集されている。原著の特徴はこれも先生が前書きに書かれているように、「個疹ないし病変を理解し、個々の患者の全身的要因を背景とした個体病理学的考え方」に基づき、誤診しやすい皮膚疾患(特に炎症性疾患)を中心に簡潔にその診方、考え方が記載されている点かと考える。若い先生には、特に各章の最初に書かれている原発疹、続発疹あるいはその疾患の定義を良く読まれることを薦める。そこに西山皮膚科学の真髄が書かれている。かつてある学会で皮膚科診断学に関するDebateがあり、丘疹と結節の違いをめぐって某大学の教授との論争があった。西山先生は「トマトは大きくともトマトであり、カボチャは小さくてもカボチャである」と相手を論破された時の興奮を思い出しつつ再版の「丘疹」、「結節」を読んだ。(西山先生の皮膚病診療の巻頭言にも多くの診断学についての記載があり、私のコラム2013年の「皮膚科疾患の病名と診断名を考える」に許可を得て掲載している)。また、5年前から尋常性白斑の研究をしており、白斑と乾癬に共通する病因があるのではとの発想から研究を進めている。最初に発表した時、乾癬では脱色素斑は見られないとの意見を頂いたが、「誤診し易い皮膚疾患」の白斑と間違いやすい皮膚疾患に「乾癬」と書かれているのを見た時には、我が意を得た気がした。この点に関しては昨年、暮れのJIDにRockfeller大学皮膚科から発表があり、今後IL17A阻害薬の白斑への応用などが期待出来るのではと考えている(IL-17 and TNF synergistically modulate cytokine expression while suppressing melanogenesis: potential relevance to psoriasis. J Invest Dermatol. 2013;133(12):2741-52)。この本を読めば、若い先生は皮膚科の臨床がさらに面白くなるのは間違いなく、また我々の世代以下のベテランの先生にも色々な読み解き方のできる教本ではと考える。西山先生は昭和40年代初頭、皮膚科の臨床Vol9-12にシリーズで「組織のみかた」を書かれているが,これもまた、監修して若い先生に読んで頂きたい内容である。(Online化されれば、手軽にダウンロード、自炊が可能になるとは思うが。いずれにしても若い先生には、是非、一読を勧めたい名著である。
- 写真1。原著 昭和43年、金原出版
- 写真2。再版 2013年 協和企画
大阪大学大学院情報統合医学皮膚科
片山一朗 平成26年1月7日掲載