第19回アトピー性皮膚炎治療研究会
平成26年2月2日(日)
会頭:秀 道広 (広島大学大学院皮膚科学教授)
広島大学医学部広仁会館
テーマ:「ステロイド治療を総括する」
大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗
この会は皮膚科領域のアトピー性皮膚炎の診療に携わる医師が年に1回集まり、共通のテーマで討論し合うユニークな研究会である。第1回は1996年に代表世話人の青木敏之先生(当時羽曳野病院副院長)が「アトピー性皮膚炎の治療効果の判定法」というテーマで開催された。私は「アトピー性皮膚炎の治療マーカー」というテーマで2005年に第10回大会を大阪で担当させていただき、多くの先生が参加され、活発な討論を頂いた。以後はガイドラインの普及による、難治例の減少などによりこの回もだんだん参加者が減り、ここ数年は皮膚脈管膠原病研究会と重なることが多く、久し振りの出席となった。今回はテーマがステロイド治療に関したもので、日曜開催ということもあり、久し振りに200名を越える多数の出席者が活発な討論を行い、満足のいく会であった。
金沢大学の竹原教授のワークショップ「アトピー性皮膚炎治療におけるガイドラインの役割」のキーノートレクチャーから大会は開始された。最近の若い先生は20世紀後半のアトピー性皮膚炎治療の混乱やガイドライン作成の経緯もあまり知らないという前提で、食物アレルギーにおける皮膚科医と小児科医の対立、ニュースステーションでのステロイドバッシング特集、アトピービジネスという言葉の誕生の歴史を簡潔に纏められ、ガイドラインが作成された背景を述べられた。脱ステロイド療法の今日的評価やステロイド忌避患者の対応に関して討論がなされたが、それぞれ診ている患者集団が異なることや、治療のゴール、用いる評価方法が異なるなどの意見が述べられた。私自身は同じ視点、同じ方法論で患者を診療、加療し、同じ評価方法で治療の効果判定を行うことが重要と考える。片岡葉子先生は血清TARC価を指標として、治療のゴールを明確に患者に示すことの重要性を指摘し、ステロイドも寛解導入、維持、漸減とメリハリの利いた使用法を行うことを提唱された。アトピー性皮膚炎の治療に精通した皮膚科専門医が行えば短期的には良い結果が期待できることは参加した殆どの医師が共感を示していたが、非専門医が長期に管理する場合、かつての難治性顔面紅斑やコントロールが困難な例が再び増加してくる可能性が危惧される。また指標となるべきTARC価が必ずしも指標にならない例の存在することの具体例に関してフロアからの指摘がいくつかあった。ガイドラインの討論同様、各施設で診療している患者の重症度や年齢、治療歴、悪化因子などが異なり、同じ尺度で治療を行うことの難しさをあらためて感じ、私もコメントした次第である。特に安易なステロイドの使用が難治性の高齢者の紅皮症の原因となりつつある現状があり、あらためて長期管理の重要性での論議が必要と考える。このテーマに関しては最後のセッションで片桐一元教授が本人自らのアトピー性皮膚炎を例にとり、キーノートレクチャーを行い、塩原哲夫教授が座長として意見を取り纏められた。フロアからは皮膚症状が手湿疹などのみとなってもアトピー性皮膚炎の非改善例として取り扱うのかなどの意見がでたが、あまり有益な議論にはならなかった。むしろ片桐教授が指摘された、日本のみならず、海外の検討でも、必ず10〜20%の難治例が残る理由とそのような難治例をどう治療していくかが問題であるとの指摘が重く受け止められた。ちなみに片岡先生の施設でも退院で軽快した症例の再燃が30%前後ありいかにタイトコントロールしてもコントロールが困難な症例が存在するようである。
この他特別講演としてステロイドの最新情報、中国のアトピー性皮膚炎の現状、汗抗原の解析の話があった。
来年は三重大学の担当で2月14日(土)の開催予定である。
会場(広島大学医学部広仁会館)
大阪大学大学院情報統合医学皮膚科 片山一朗
平成26年2月3日掲載