教室関係コラム

2017.05.02

76TH ANNUAL MEETING PORTLAND OREGON

76TH ANNUAL MEETING PORTLAND OREGON
APRIL 26-29, 2017
OREGON CONVENTION CENTER

大阪大学医学部皮膚科学教室
室田浩之

 オレゴン州ポートランドで開催されたSIDに参加した。ポートランドの天気は霧雨ですっきりしない、寒い天候であった。昨年のスコッツデールとのギャップが大きい。雨だったものの、ポートランド内を運行するライトレールが大変便利で、学会参加者に配布されたフリーチケットのおかげで快適に移動できた。街の印象だが、普通に会場と宿泊先を往復するだけでも親切な人に出会ったり、突然危ない雰囲気を感じたり、不思議な雰囲気であった。
今回は神谷先生、松本先生の3人で参加した。私が二人の父親と勘違いされる場面もあり、白くなった無精髭を揃えてくるべきであったと後悔した。

プログラム開始前に到着できたのはチャンスと考え、水曜日早朝より開催されていたPan-Pathific skin barrier symposiumから参加した。

Dr.Lee SE の発表に注目した。ER stressがタイトジャンクションに与える影響に関する発表ではclaudin-4とzo-1、F-actinの分布に異着目して評価が行われていた。表皮細胞ほど紫外線などの外界からの刺激をうける。興味深いのは適度(軽微)なER stressは表皮バリアを維持するのに関わるらしい。NB-UVBの効果に近いのではないかと考えた。ERストレスは今後注目していきたい。
傳田先生の発表はいつもたのしみにして拝聴している。今回は表皮細胞がbuddingして層板顆粒を分泌する過程において、細胞膜のリン脂質が重要であるとの報告であった。フルクトースはリン脂質と水素結合することでバリア回復を促し、グルコースはバリア回復に影響せず、それは水素結合できないからであろうとする結果を、簡潔ながらも美しいモデルで評価されていた。私たちが研究している汗のバリアに与える作用を考える上で大変参考になった。
韓国のグループから11b-HSD1がアトピー性皮膚炎の発症に関わるとの報告があったが、これまでに阪大を含め各国から報告されているHSDの機能に関する報告と大きな違いはなく、タイトルにつながるような直接的証拠は得られていないという印象であった。

さて、本題に入りたい。SID本体は相変わらずエキサイティングだった。
State of Art Plenary Sessionは2題で、Dr. PayneとDr. Leによる発表だった。
Dr. Amiee Payneは天疱瘡治療の最新の話題をDsg3 CAART細胞が_抗Dsg3抗体産生B細胞を選択的に減少させるシステムの構築までのプロセスを丁寧に説明され、感銘をうけた。
Dr. Lu Leの研究の予想外の展開を興味深く拝聴した。神経線維腫(NF)のモデルマウスを作成しようと末梢神経のmyelinationに関わる転写因子Krox20でCreを発現させるマウスとSCF-floxを掛け合わせたところ、生まれたマウスNFは出現しないが生後2ヶ月後から全身の毛が白くなった。Krox20はectdermから_毛軸胞になる前駆細胞のマーカーになるとのことであった。

Kliegman lectureはKupper先生で、TRMに関するupdateだった。TRMも皮膚にホーミングするためには大変なエネルギーを要するのだと知り、興味深かった。TRMに発現しているFabp4、5はpalmitateの選択的な取り込みに関わる。その結果TRM内にエネルギー源となるFFAが蓄積するとのことだった。このメカニズムは黄色腫にもつながらないだろうか。

遺伝疾患のセッションではProf. McGraphのEBにおけるKLHL24の発見(first metionineをふくむ28アミノ酸が欠失)、Prof. OroによるEBの治療、特にiPS細胞をCRISPER-Cas9でL遺伝子変異を修復した細胞で治療する試みを聞いた。またデルマトームに分布する疾患のモザイクは念頭におかなくてはならないことを再認識した。

組織再生のセッションは実に楽しかった。最近私たちは皮膚のtouch senseに興味を持っており、たくさんのメルケル細胞の話を聞けたのは大変有意義であった。(逆にメルケル細胞は昨今盛んに研究が行われているようだ)
NYのMaunt SInaiのグループはpolycombとメルケル細胞に関するpolycomb repressive complex (PRC)1 and 2は主要なepigenetic regulatorであるが、その触媒機能の欠損したマウスは正常な皮膚と毛包形成、メルケル細胞の増加を認めた。PRC1KOマウスはメルケル細胞が損なわれていた。
Prof. Millarのグループはメルケル細胞の発生に関して核心に迫る報告をした。Wnt, Edar, Shhシグナリング、特にwnt シグナリングがメルケルとtouch domeに活性が強い。ではwntシグナルはメルケル細胞の発生に重要なのだろうか?上皮のbeta-cateninは神経の分枝を阻害していた(メルケルとのシナプス形成に関わる?)。non-canonical dermal cellに由来するWnt/5aはメルケル細胞の発生を抑制する。beta cateninを阻害するDkk1処理、あるいは上皮wint10aの欠損によってメルケル細胞の数は徐々に減少するようだ。tactileやtouch senseの評価はなされていなかった。
Prof.ChristianoのグループはJAK-stat wnt-BMPシグナリング Stat5は毛の休止期に関わるとした。K5-,K14,K17特異的にでStat5をKOすると成長期になる。Stat5の下流のID1発現が休止期に関わることを見出した。
汗腺の発生について、Lu先生の発表を拝聴した。真皮に由来するShhとBMPのバランスが毛包または汗腺の形成を決める。次にのこされた課題はヒトの汗腺の機能の複雑性がどのようにして獲得されるかを解決することでああろう。

次にポスターセッションより、じっくり説明を聞けた話を3つほど・・。
タイのグループはRhodomyrtus tomentosa(天人花)と呼ばれるフトモモ科の常緑木の葉の成分 rhodomytone はIL-17Aに起因する炎症を減弱し、IMQモデル動物の炎症を改善するとの報告があった。このような天然コンパウンドの発見はその土地のライフスタイルとも直結しいて興味を引く。また、ふとした事でマイアミ大学の医学生と仲良くなった。彼らの発表では、切った毛髪を光コヒーレンストモグラフィーで観察し、その形が人種によって異なることを示した。CaucasianよりもMexicanとAsianは径が少し太く、均一に円形なのだそうだ。年齢や毛包周期との関連はこれから調べるらしい。福岡大学の佐藤先生の発表ではTuberoinfundibular peptideであるTIP39が線維芽細胞においてPTH2受容体を介してデコリンを産生し、膠原線維の直径に影響することを報告した。興味深いことにTIP39の影響は線維芽細胞よりも脂肪組織で強いらしい。強皮症やモルフェアが皮下脂肪組織楊側から硬化する事との関連も想起させる。

最終日は臨床のセッション
ジョンホプキンス大学のグループは痒みの季節性に関する疫学調査を行っていた。痒みの疫学調査はあまりなく、cross-secionalな検討ではそう痒症の有病率は8.2ー16.7%とされる。彼らはGoogle Trendsを用いた疫学調査を行い、USA and UK ans itchあるいはpainで検索した際のserach volume index(SVI)を評価した。2011以降、気温の上昇に関連して痒みの頻度は上がっていた。その傾向は特にUKで高かった。嬉しいことに、私のEuropean Journal of Painのreviewを引用して考察を組んでくれており、TRP、CGRP、 arteminの潜在的な関与を考えていた。
amelanotic melanoma (AM)は確認の遅れることで予後に大きな影響を与える疾患である。AM患者に特徴的に見られる臨床所見を明らかにするために2,276名のmelanoma患者を対象としたInternational,population-based Genes, Environment, and Melanoma (GEM) studyが行われた。その結果によるとMC1R変異体の有無はAMと関連が見いだされず、高齢者のAMの臨床症状として、背中の母斑が無い、freckleの多発あるいは日光過敏指標の高いこととしていた。この発表内容には、ある(別の)意味で驚いた。

さて、私たちは松本先生の行った痒み研究について報告を行った。これは活性型コルチゾールの産生に関わる酵素を表皮特異的に欠損したマウスの皮膚感覚異常の原因について解析したものだ。私たちは皮膚の感覚過敏(アロネシス)をマイアミ大学の秋山先生の論文を参照して解析した。実際にその秋山さんにポスターを訪れてもらい、実験のアドバイスをもらえたことは大きな収穫であった。そのほか、多くの方にポスターに足を運んでいただき、たくさんのスルドイ質問とコメントをいただき今後の課題が見えた。投稿準備中であり、大変有意義だった。

さて学会終了後、朝5時発の飛行機だったため、早めの夕食をとるため会場近くのショッピングモールのフードコートに立ち寄った。連日ランチを摂るタイミングの難しいプログラムだったのでお腹はすいていた。6ドルほどと比較的安価で山盛りのヌードルとライスが手に入り得した気分だった。思えばポートランドで消費税を払うことがなかった。これはポートランドが居住区として人気の理由の一つらしく、その恩恵に与ることができたのだった。

平成29(2017)年5月2日掲載

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