教室関係コラム

2016.04.01

人工知能(AI)と皮膚病診断

人工知能(AI)と皮膚病診断

大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗

先日「ヒフミル君」という、ウェッブ上で皮膚疾患の診断を行うアプリが広まっていることを聞く機会があった。その時の議論で、このような画像診断やウエッブ治療の可能性に関しては今後、国の政策医療として進められる事も予測されており、その裏付けとして人工知能(AI)が今まで不可能と考えられていたプロの棋士に勝ったという報道がさらに拍車をかけるのではと思うのは私だけではないと考える。実際、「メミル君」という眼科用アプリも利用が増えているようで、いづれも開業医への影響を懸念する声を聞く。他方、学会などが中心になり、本当の皮膚科専門医が対応すれば、皮膚科医不在の離島やマンパワーの不足する地域への強力なサポート体制を構築できるという意見もある。実際、今のネット通信技術の進歩は立体画像や匂い、香りなども送受信可能な日が近い事を予測させる。また病理画像やダーモスコピーなどもその解析ソフトの進歩と合わせ、ある程度の皮膚疾患の診断や治療に応用が可能になるかと考える。このような技術の進展に呼応するように、診断ガイドラインとアルゴリズムが多くの皮膚疾患でも作成され、患者情報の入力により診断が可能になりつつある。特に乾癬のバイオ治療や黒色腫の免疫チェックポイント阻害薬が極めて有効であるエビデンスが集積しつつある現在、診断さえつけば、後はウエッブ上で指示を出す事も可能になりそうな時代になった。チャペルヒル分類を下に作成されている皮膚の血管炎の診断アルゴリズムを例に取ると、先ず抗体や免疫グロブリン、クリオグロブリンなどの検査結果から診断プロセスが進み、それらに合致しない場合、炎症の深さで皮膚白血球破砕性血管炎と皮膚動脈炎の2つに分けられるらしい。うまく機能すればAIによる診断も可能になるかと思うが、診断根拠としての皮膚の血管炎の定義がはっきりしておらず、そこが一番、アルゴリズム化が難しい点かと考える。一般的にはDermal Plexus レベルより深い筋型の小動脈であれば血管壁を中心とする血管の炎症を病理学的にとらえる事が可能であるが、細動脈(最小動脈)から毛細血管レベルの血管であれば炎症の強い場合、血管自体が追えなくなる事も多く、好中球浸潤やフィブリノイド変性、出血性の変化などが病理変化の主体となる。結果的にはIgAの沈着の有無が主体となるようで、古典的なRuiterの皮膚アレルギー性血管炎、いわゆるGougerotのNodular dermal allergides、Shamberg病やMajocchi病などのリンパ球性血管炎、全身症状がはっきりしない膠原病にともなう高ガンマグロブリン性紫斑、Zeek の過敏性血管炎などの位置づけが難しい。さらに小動脈レベルでいえばLivedo racemosa、血栓症などの取り扱いも難しい。今後、歴史的には広く認知され、明確な臨床像を呈する皮膚の血管炎で、アルゴリズム上、検査所見で陰性となるような血管炎群の取り扱いをまた検討頂ければと考える。医療の進歩にともない疾患概念や治療法が変わるのは当然であるが、明確な議論抜き、あるいはそのプロセスのはっきりしない診断基準やアルゴリズムの一人歩きは、臨床の現場に混乱を残すことも予測され、現時点で解決できない部分を明らかにして頂ければと考える。参考までに、水野信行名古屋市大名誉教授が執筆された皮膚の血管炎の総説を引用させて頂く。(この総説は清水正之三重大学名誉教授が版権を取得され、その別冊を皮膚脈管膠原病研究会に寄贈頂き、世話人の方に配布させて頂いて来たが、清水先生の許可を得て、HPにアップさせて頂く。)

Purpura simplex
Duhringのカラー図譜 (1876年版より)

平成28年4月掲載
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