教室関係コラム

2016.10.07

年報序文

年報序文

大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗

 今年も、新しく皮膚科学を生涯の職業とされる先生方を迎える季節となり、ましたが、今年は例年になく早く年報序文を書いております。2004年にスーパーローテートシステムが導入され、来年からは先行きは不透明ですが、後期研修医制度の開始にともなう研修プログラム作成が基盤18学会で進行しており、学会以外の組織から専門医が認定・授与されることが言われており、その是非が今も論議されています。 さて今、ウェッブ上でヒフミル君と」いう、アプリが広まっているようで、「皮膚の写真と患者情報、あらかじめ決まっ」いる項目を入力して送信すると、12時間以内に皮膚科専門医(どのような専門医か不明)から無料で診断のアドバイスを得られるということのようです。同じような「メミル君」という眼科サイトもあるらしく、このような画像診断の精度の向上にともない、診断のみでなく、対面診療によらない治療の可能性に関しても、国の政策として進められる事が予測されています。
 私が皮膚科を選択した理由はいくつかありますが、将来はコンピューター技術やロボット医療がいくら進歩しても皮膚科はその疾患の多様性、4次元的な病因論などによる診断の困難さ、そして診療医の工夫による独自の外用治療が主体である事から医師の対面診療が無くならないと考えた事があります。その対極として星新一のショートショートにありそうな、機械に簡単な問診表を挿入し、腕をさしいれるだけで心電図や血液検査が行われ、ボタンを押すと薬がでてくる機械が、近い将来、実用化されるのではと考えた事もあります。
今後の皮膚科専門医の位置づけがどうなるかは全く予測ができませんが、「ヒフミル君」の今後の進化を考えると、将棋のようにAI(人工知能)が認定機構の認定専門医よりも診断能力や治療コンサルテーションの情報量の多さで勝ち、皮膚科医に取って代わる可能性も否定はできない時代が近づいている事を感じます。どう対応していくか、次の時代の指導者に引き継がれるべき大きな問題です。さて、このたび名誉ある「2015年度、第6回小川・清寺記念賞」 を受賞し、小川 秀興理事長より賞状と記念のグラス盾を頂きました。清寺眞先生は私が学生時代に勉強した教科書にもすでにメラニンの合成経路として生化学、電顕による研究成果が記載されていた世界的な研究者で、私が在籍した東京医科歯科大學皮膚科学教室の第2代教授として、その素晴らしい肖像写真が医局図書館に飾られていました。私自身メラノサイトの研究はこの10年あまり行ってきただけで、今やっとその研究が面白くなってきたところであり、受賞資格などとてもないのですが、今回の受賞理由に「アレルギー疾患、膠原病の病態解析と治療法の開発及び皮膚免疫研究に関する実績は国際的にも高い評価を受けておられます。また、痒みの研究や汗の分野にも国際的な業績の積上げに貢献されました。」とあり、畏れ多くも受賞の栄誉を頂く事になりました。また授賞式では恩師の西岡清東京医科歯科大学名誉教授が駆けつけてくださり、私の研究歴を紹介して頂き、身に余るお言葉を頂きました。私の研究は大阪大学、北里大学、東京医科歯科大學、長崎大学、そして再び大阪大学と異動するそれぞれの大學で直面した臨床での疑問を解決したいという動機から開始し、それを自分の中で有機的に結びつけながら継続性を持って行ってきました。その中で多くの若い先生方と一緒に研究を開始し、試行錯誤しながら他の研究施設の素晴らしい先生方とも知り合うことで世界を広げる事ができたと考えております。泥臭い日々の臨床の中から、生まれる疑問を見いだし、新しい世界を創り出して行く事は、AIには決してできない事で、その努力を放棄しない限り皮膚科医はその「皮膚科医の眼」で皮膚疾患を的確に診断し、AIにはできない最良の医療を提供できると考えています。

熊野大花火と太陽伝説

熊野は古来、徐福伝説に由来する不老不死の国への出発口であり、太陽信仰の聖地でもある。熊野の大花火は大輪の花を夜空に描き、消えて行く大花火と異なり、次の時代に時を超えて繋がる扇型の光の芸術である。上に見える赤い光の玉は北欧の夏の太陽を重ね合わせ、時空を超えて繋がる熊野からの未来をイメージした。

平成28年10月7日

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