HOME V meeting
CCI Nantes France
2017.6.12-14
大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗
過去のHOME 会議
アトピー性皮膚炎の疫学、EBM研究で世界をリードされているノッチンガム大学皮膚科ハイウェル・ウィリアムズ教授が主催するアトピー性皮膚炎の治療に対する国際的な評価基準を作成する第5回HOME会議に出席した。この会議は2010年から開催されており、私は第2回のアムステルダム会議以来2回目、室田先生は4回目のマルメ会議を含め。3回目の参加である。1589年のナントの勅令で有名なフランス西部、ロワーヌ河口に広がる中世都市ナントはフランス人が一番住みたい街とのことで、新しく発展する市郊外とナント城を中心とする旧市街がうまく共存する街で、ドゴール空港からTGVで到着したのは夜10時過ぎで、気温も32度と日本より暑かった。サマータイムが始まっており、まだ外は明るかったが、かろうじてレストランの閉店前に遅い夕食を摂った。前回のHOME IV
会議で評価項目として、皮膚症状、患者の症候、QOLの評価項目が策定されており、今回は長期の維持方法 (Long term control)をどうするかを決める会議で一グループ10人前後からなるグループ討論と全体討議を繰り返す進行で会議が進められた。多分この会の目的は2010年の開始の時期にすでに予測されていた、バイオ製剤を含む新しい薬剤の治療効果を世界的な評価基準で評価する目的で開始されたと考えるが、今回は企業研究が参加者の3割近くを占め、祇議論にも積極的に参加する姿を見て、新しい臨床研究の時代が始まった印象が強かった。日本ではCOIの問題で会の開催も難しいところではある。同様の白斑の世界的な研究会にも出席しているが、かなりの温度差は感じる。前回までに重症度の定義、バイオマーカー、Proactive療法などが討論されていたが、今回はLTCに関して10個の評価項目が事務局から提示され、その中から参加者が重要と思えるものを3つ挙げ、グループ討論で議論を深め、全体討論でコンセンサスを得る手法がとられた。ただ参加者の主義、主張が、そこに企業の論理なども入り、堂々巡りになった感も否めず、最後には患者代表や若い研究者からMeeting goes round in circlesという意見もで、結論らしい結論はでなかった。個人的には、全体の流れから、評価がある程度簡便で、患者が受診しなくても可能な評価項目を取り入れていくことが重要かと考える。
今回の結論
2015年のNottinghamでのライカシンポジウムでタール療法がAryl hydricarbon receptor を介して皮膚炎を抑えるという興味深い発表があったが、今回参加者からすでに新しいAhRリガンドが乾癬で有効な結果が出ており、アトピー性皮膚炎でも臨床治験が進んでいると聞いて、アトピー性皮膚炎の外用療法が大きく変わっていく可能性を改めて感じた。
最近、AhRのConstitutive active tgマウスがアトピー性皮膚炎様症状を呈するという報告を聞いたばかりで、この点でも驚きであった。日本からは阪大から小野、太田先生。九大の中原先生、片岡先生、大矢先生、二村先生の参加だった。
最終日はリヨンのインセルム研究所への訪問のためにあまり観光する時間がなく、念願だったベルヌ博物館は次回訪問になってしまったのが残念であった。
閉館で次回に持ち越しのベルヌ美術館前にて。
Inserm Meeting
ナントでのHome V会議終了後、我々はリヨンに移動し、Inserm研究所の主任部長、Jean-Franco Nicolas教授のお招きで、お互いの研究発表を行い、討論を行った。前日の夕方は21時過ぎから、Nicolas教授を囲み、教授推薦のローヌワインを地元の郷土料理とともに楽しませていただいた。彼は、岡山大学の岩月教授がリヨン大学Thivolet教授の教室に留学していた頃からの友人である。岩月教授が主催された2015年の岡山の研究皮膚科学会に来日し、帰路大阪で講演していただいて以来のお付き合いで、特に室田准教授とはオートバイが共通の趣味ということで、前回の訪問時には二人でツーリングを楽しんだそうである。その時の縁で、今年から教室の小野慧美先生が留学することが決まった。翌日は午前中みっちり研究討論を行った。小野先生は留学のテーマであるResident memory T cell の皮膚疾患での動態を綺麗な免疫染色スライドで示された。また室田先生は皮膚での活性型のコーチゾール変換酵素(11βHSD1)の動態を示され、特に彼が現在研究している痒みと本酵素の関与に関するデータを紹介された。Inserm側からはインターネット会議で小野先生の指導をしてくれているMarc先生が専門のマウス接触皮膚炎をモデルとしてFlare up現象におけるCD8b陽性のRMT細胞の動態を紹介していただいた。彼の話でハプテン特異的な末梢のRMTが存在し、感作一年後も所属リンパ節から皮膚局所に供給している可能性があるとのことであった。またPDL1による免疫抑制の実験結果など興味深いホットな話題を提供していただいた。今後、小野先生との共同研究の進展が楽しみである。
Inserm内食堂前にて。 Nicolas教授、Marc先生方と
32℃を越す夏の日差しが眩しいリヨン市
大阪大学皮膚科教授 片山一朗
平成29年6月20日